劇場公開日 2020年8月28日

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「懐かしい気分を損なわれませんでした」幸せへのまわり道 元イリノイ州の住人さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0懐かしい気分を損なわれませんでした

2020年9月15日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

幸せ

とっても懐かしい気分が損なわれませんでした。
正直日本の普通の映画ファンの方がどの程度この映画を受け入れていただけるのかとても懸念していましたが、トムハンクスの抑えた演技もありおおむね好意的なレビューが多くて安心しました。

私事ですが90年代初めに仕事の関係で家族と共に在米し、mister rogers neighborhoodは小生と家内のお気に入りの番組でありました。mister rogersの番組は小学校低学年以下を対象としていて、PBS (公共放送)で日に何度も放映されていました。語り口はとても穏やかで、日本に置き換えると尾木ママのような感じでしょうか(お姐言葉ではありませんが。)

渡米後、早口の米国英語を解するのは特に家内にとって大変な重荷でした。そんな中小さな子供たちにも優しくゆっくり語りかけ、また表現も平易であったmister rogersで、英語の勉強をしていました。今思い返すとmister rogersが繰り返した伝えたこと、例えばYou are special, that's what I like.などから、個性を大事にして、個々を尊敬するという米国人の基本的な考え方についても学んでいたのだと思います。
当時mister rogers好きを公言すると、米人の同僚たちからは、he is too corny. (古臭い、陳腐)とかネガティブな反応があり、あまり表立ってmister rogersのことを言い出せない雰囲気がありました。そもそも教育のある大人の見るものではないみたいな印象です。映画の中で記者がmister rogersをテーマにせよと命じられた時の反応が、よく当時の雰囲気を表しているのでしよう。
mister rogers役のTom Hanksがスタジアムジャケットを着させられてArsenio HallにインタビューされるシーンやOprah Winfreyに詰問されるシーンは、当時のmister. rogersのテレビ実出演部分にTom Hanksを置換えたForrest Gumpなどにもあった手法で再現されています。古臭く道徳を説くmister rogersは、当時のメディアからさらし者的な扱いを受けていたのだと記憶します。そんな場に招待されても自分のスタイルを変えずに落着いて反論していくTom Hanksによるmister rogersの姿の再現も感動的に受取りました。
多分ほとんどのアメリカ人が子供の時にmister rogersの番組を見て育ったことは間違いなく、映画でニューヨークの飛行場やマンハッタン、ピッツバーグの街をミニチュアで表現していますが、この表現がmister rogers neighborhood番組表現の再現になっているので、過去を思い出して、なんとも言えない懐かしい気分になりました。ちなみにタイトルバックの字体、配色もTVと同じ。TV番組の再現部分は昔のアナログTV/ビデオのように輪郭部分にモアレがあって、それだけでも昔ゴーストだらけのアナログTVでmister rogersを見ていた日々を思い出す仕掛けがいっぱいでした。

家内は出てきた挿入歌を全部歌えると感慨に浸っていました。Fred Rogersその人の功績については、ドキュメンタリーのWon't you be my neighbor?『ご近所さんになろう』に詳しいです。この映画をご覧になった方は、ぜひそちらを見て、本当のFred Rogersを知って貰いたいと思います。

元イリノイ州の住人