劇場公開日 2020年3月13日

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「my self」ジョン・F・ドノヴァンの死と生 KinAさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0my self

2020年3月25日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

とある人気俳優のスキャンダルと死。思い起こす彼の人生と彼に憧れる男の子の人生。を、聞く人と話す人。

人生を強く恨んだり人生を明るく見たり、感情を忙しなく上下させられる映画だった。

自分を守るために他人を傷つけたり、守られたいのに傷つけられたり、どうしてこうも上手くいかなくて胸が締め付けられる。
その反面で夢みたいに綺麗な救いの光が差し込んできたりする面白さ。ダイナーに現れたおじいちゃんはさながらおとぎ話の妖精である。

ルパートがただ昔を思い出すだけでなく冷静な聞き手がいることで、この物語がより際立っていたと思う。
オードリーの聞く姿勢の変化がとても好き。最後の表情が忘れられない。
セクシャリティが多数派と違うだけで生きていけない世界と、貧困のあまり子供が生きていけない世界、どちらも等しく大きな問題である。なるほど。
まあ全世界数十億人の全ての悩みや問題に寄り添えるほどの巨大な受け皿は私には無いけれど、耳を傾けることはできる。

自分の人生を強く想いながら観ていた。
絶世の人気俳優ジョンも、話題の若手俳優ルパートも、名もなき子役のルパートも、元女優のシングルマザーも、誰の生き様も私とは違うけれど、「駆け出しの大人」として自分のことを考えずにはいられない。

ただ、母子家庭で育った身として、ルパートと母親やジョンと母親の関係性には涙がボロボロに溢れてしまった。
母親には愛も憎もどちらも抱いている。憎き気持ちをありったけぶつけたこともあるし、その存在に大きく感謝して愛を込めたこともある。
二人の言葉と感情の応酬は身に覚えがありすぎて、しんどいくらい移入していた。

なぜ時が経つと身体が成長していくのか、なぜ歳を取ると大人になるのか、なぜ思った通り上手くいかないことが多いのか。
今のところ仕事関係も友人関係も趣味も楽しめているけど、それはいつまで続くのか。
同級生で結婚してる人がちらほら出てきたけど、果たして私にそんな未来はあるのか。そもそもこれから恋人ができることがあるのか。私はどんな死に方をするのか…なんてグルグル考えて恐ろしくなってみたり。
いやまじでこれからの人生が見えなさすぎる。怖いな。

手紙のやり取り、ジョンがなぜルパートに返事を出したのか、気になるそこは明かされないもどかしさ。
正直、100%全てが真実だとは思わない。
ルパートにかかっているバイアスは結構強いと思っている。
それでも、ある男が生きていたことと今を生きる男がいること、なんだか伝わってきた。

全カットがキレキレに綺麗な写真が連続して出来たような映像だった。
ああいう写真を撮りたい。

KinA