「【”ジョンの魂”は濃緑色のペン字の手紙を通じて、確かに幼き少年に伝わった・・。】」ジョン・F・ドノヴァンの死と生 NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)
【”ジョンの魂”は濃緑色のペン字の手紙を通じて、確かに幼き少年に伝わった・・。】
- 監督はグザヴィエ・ドランである。
一筋縄ではいかない作品であろうという想いとともに、期待高まりつつ劇場へ。-
■明確なストーリー展開と結末を好む方はグザヴィエ・ドランの作風の”事前リサーチ”をした方が良いかと思います。
■観客に解釈を委ねる映画がお好みの方は、楽しく観られる映画ではないかと思います。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
<ここから、内容に触れるので未観賞の方はご注意下さい。
上記を記したく”ネタバレなし”にしてありますので。>
ジョン(キット・ハリンソン:この配役が彼の近年の私生活を考えても絶妙である。)と、”文通相手”のルパート少年(ジェイコブ・トレンブレイ:言わずと知れた天才子役。今作でも見事である。)は驚くほど、周囲の人間関係が似ている。
1.母親との微妙な齟齬
・ジョンの母:グレース(スーザン・サランドン)
・ルパート少年の母:サム(ナタリー・ポートマン)
2.実の父親の不在
3.自らの生活環境への違和感
・ジョン:人気俳優だが、”許されない友”との関係、映画業界の慣習及び自らの世間からの観られ方に悩み、”偽り”を抱えて暮らす・・。
・ルパート少年:母の意思でロンドンに移住してきたが、環境に慣れず、学校の中では孤立している・・。
物語は、
・ジョンの視線で描かれるパート
・ルパート少年の視線で描かれるパート
・ルパート少年が成人し、夢が叶いつつあるルパート青年がジョンとの遣り取りを本に起こし、インタビューを受けるパート
で構成される。
ここが、(”グザヴィエ・ドラン作品”としては分かり易いとは思うが・・)重層的に映し出されるため、じっくりと鑑賞したいところである。(併せて、映像の美しさ、音楽との共振性を楽しむ・・。)
劇中の音楽も印象的であり、特に冒頭のアデルの大ヒット曲"ローリング・イン・ザ・ディープ”、中盤のルパート少年が母に対する愛を激しく語る場面で流れる”スタンド・バイ・ミー:女性バージョン”・・・の効果的な事。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
■ここから、私の勝手な憶測
ジョンは、”不寛容な映画界の現実”に打ちのめされ、マネージャーのバーバラ(キャシー・ベイツ)にも去られ、主要な役を獲得出来ず、姿を隠す。→ ”死”
が、ダイナーで独りでいる所に現れた謎の老人の言葉に勇気を貰う姿と穏やかな微笑み。(この老人(マイケル・ガンボン)のジョンに掛ける言葉と、優し気な姿の素晴らしさ・・。)
そして、母グレースを花束を携えて訪問し、兄と共に楽しそうに過ごす姿が描き出される。→ ”生”
映画タイトルは”ジョン・F・ドノヴァンの死と生”である・・。
若い男性が自ら持参したと言われ渡された手紙(ジョンが”迷い”を捨て、少年に自ら持って来たと解釈)を読むサム(それまで、手紙自体の存在を息子の嘘ではないかと思っていたと思われる・・。)の涙する姿と濃緑色のペン字で書かれた手紙の内容(劇中初めてナレーションで読まれる・・・・)で、一気に涙が込み上げてくる。ジョンがルパート少年に語り掛けるように書いた手紙の内容にである。
私は ”暫く寝ていない・・・、から始まり、”少し眠る・・” と書かれた内容からは、彼の死が”自らの将来を悲観した自死”とは思えなかった。
(このシーンは色々な解釈が出来、且つそれを各人が楽しむ所であろう。)
重ねて記載するが、映画タイトルは”ジョン・F・ドノヴァンの死と生”である・・。
インタビュー後、"友人"であろう男性のバイクの後部座席に笑顔で乗り込むルパート青年の姿。
<ラストに鳴り響く、英国90年代ロック界に彗星のように現れ、消えて行ったザ・ヴァーヴの”ビター・スイート・シンフォニー”の輝くように美しいオーケストラシンフォニーが、”ジョンの魂は確かにルパート少年に伝わった事”を祝福するようにしか聴こえなかった作品。>