「柔の北川景子とサイコな芳根京子」ファーストラヴ みかずきさんの映画レビュー(感想・評価)
柔の北川景子とサイコな芳根京子
タイトルから純愛物語だと思っていたが、サイコ風味の心理サスペンスだった。父親殺しの容疑者である女子大生は動機を明かさないという設定なので、犯人探しではなく、容疑者の動機解明が物語の主軸である。容疑者の供述、関係者の供述をもとに、紆余曲折はありながらも、螺旋階段を上るように、徐々に容疑者の動機=深層心理に迫っていくプロセスが、本作の面白さであり醍醐味である。
本作の主人公は、公認心理士の真壁由紀(北川景子)。彼女は、父親殺しの容疑者である女子大生・聖山環菜(芳根京子)のドキュメンタリー本の執筆を依頼される。彼女は、環菜の弁護士であり義弟の庵野(中村倫也)の協力を得て、環菜、関係者の供述をもとに、環菜の心の闇を浮き彫りにして事件の真相に迫っていくが・・・。
本作をサイコな雰囲気にしている立役者は、芳根京子だろう。従来の清純派のイメージを一変して、一筋縄ではいかないアクの強い曲者ぶりで、正気と狂気が入り混じった表情に凄みがある。環菜の心の闇の奥深さを想像させる怪演である。役者としての新境地を開いた感がある。
北川景子が、従来の勝気なイメージを払拭して、心優しい、女らしい艶やかな、柔のイメージを醸し出している。そんな女らしい表情と、自身の心の闇と対峙した時の冷静さを失った恐怖に満ちた表情の対比が見事。台詞に頼らない表情の演技に女優としての成長を感じる。一方、中村倫也は、一見ぶっきら棒だが冷静な分析力を持った弁護士をらしい演技で表現している。そんな、柔と剛の二人のやり取りが面白い。さらに、主人公の夫役の窪塚洋介が、曲者揃いの登場人物のなかにあって、優しさに溢れた、全てを達観した雰囲気で、殺伐とした作品に温もりを与えている。
それまでの物語の展開からラストは劇的だと思ったが現実的だった。しかし、あの環菜の迷いのない表情に希望の光が見えた。環菜の再生を予感させる幕切れだった。