「思ってたのと違ったけど」ファーストラヴ aMacleanさんの映画レビュー(感想・評価)
思ってたのと違ったけど
予告編を見ると、血だらけで包丁を持って歩くシーンが印象的で、心理戦を描いたサイコパス映画かと思ったが、中身はヒューマンドラマを絡めたサスペンス。
父親を刺してしまった女子大生、聖山環菜(芳根京子)。拘置され裁判となる。「動機はそちらで探してください」と、取調べで不可解な答えをしたと報道され、心理士の真壁由紀(北川景子)は彼女に興味を持ち、その心情や背景を探ってゆく。環菜の闇をはらおうと、熱心に事件の背後にある事実を解き明かそうと飛び回るが、それは自分の過去と重なる何かを、環菜に見たからでもある。事件を担当する国選弁護士の庵野迦葉(かしゅう:中村倫也)。由紀の夫は迦葉の兄の真壁我聞(窪塚洋介)。そんな三人の関係性や過去も含め、少しづつ明らかになり、物語が進んでいく。
推理ドラマや心理劇とは違うので、そこを期待すると少し肩透かしになる(私です)。そういう意味では、予告編はミスリードかも。しかしながら、なんといっても芳根京子の熱演が光る。そこを切り取ると、確かにトレーラーとして人目を引くので、仕方ないか。
シーンは主に拘置所の接見室での会話となるのだが、最初のうちは、嘘やあざけりなど、レクター博士のようなサイコパスをイメージさせる。それにより、由紀(北川景子)を手玉にとるような展開を思わせるが、過去が明らかになるにつれ、少しづつ表情も変わってゆき、クライマックスでは別な人格と思える雰囲気となる。例えれば、戦場から帰ってきた兵士のようだ。ま、悪魔のような天才サイコパス役の芳根京子も見てみたかったけど。
北川景子は美橋の心理士。演技としては芳根京子に呑まれた感はあったけど、お子さんが産まれて、ますます美しさに磨きがかかったようで、画になる女優として、本作の華としての存在感は確か。
弁護士の役の中村倫也は、やっぱり声がいいですね。北川景子との美男美女のシーンは、それだけで格好が付くのだけれど、役柄が尖ったところがないので、少しインパクト不足だったか。由紀の夫であり、迦葉の兄である我聞役の窪塚洋介が、包容力があり落ち着いた大人の男の雰囲気がハマっていて、とても好感が持てた。ゆっくりした話し方、すべて受け止めるような眼差しなど、新境地ではないだろうか。
当初心理サスペンスかと思い込んでいたので、パンチ力は少なかったものの、ドラマとしてはしっかりとした構成で楽しめた。原作は読んでいないので違いはわからないのだけど、映画ならではの深掘りがもう少し欲しかったか。堤監督の、一歩引いた感覚は好きな方なのだけど、そのセンスが本作を少し薄味に仕上げてしまったように感じた。