「一種の「観察映画」としての趣が。」のぼる小寺さん yuiさんの映画レビュー(感想・評価)
一種の「観察映画」としての趣が。
小寺さんはひたすら目の前の壁を凝視し、その周辺にいる人々はそっと互いをのぞき見る。そんな距離感の作品。大きなドラマではなく、日常の積み重ねで物語を紡いでいく巧みな語り口は、『若おかみは小学生!』の吉田玲子氏による脚本の功績でしょうか。
物語の舞台は大部分が高校の教室と体育館に限定されていて、まるで舞台劇のような作りとなっています。さらに小寺さんの周辺にいる高校生達一人ひとりが、独立した幕の主人公として描かれます。彼らがどのような家庭環境で育ったのか、といった背景情報は、わずかな台詞という形でしか与えられません。この物語は「これまで」ではなく、「これから」をどう生きるのか、に明らかに焦点を当てていて、その行動を促すのは、大きな事件ではなく小さな経験だ、ということを示しているゆえの語り口なのでしょう。
物語の結末に至っても、その歩みは外部から見たらごくささやかなものであったり、あるいは捉え方によっては挫折だったりしますが、明らかに幕開け時よりも成長した彼らの姿があります。中でも主人公である小寺さんこそが、最も人物像の掘り下げを意図的に浅く(何を考えているのか分からない)描いていますが、これは意図的な演出でしょう。『横道世之介』(2013)と同様に、小寺さんは人々が成長するための一種の「器」として機能しているのです。
工藤遥さんのボルダリングは訓練の成果があって、あくまで素人目ですが、見事な動きでした。身体技術を駆使する場面は映像のリアリティを左右しますが、これを自然に見せてしまう演技はとても素晴らしいですね。
今晩は。
レビューを一通り、拝読させていただきました。映画に対してのスタンスが基本的に肯定的で、尚且つ作品に寄り添った品性の漂う温かみのあるレビューとそれを支える豊富な映画の知識に驚きました。
フォローさせていただきます。
これからも、素敵なレビューをお願いいたします。
では、又。