劇場公開日 2021年7月9日

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「霧笛が無敵の人を呼ぶ」ライトハウス よしえさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0霧笛が無敵の人を呼ぶ

2021年7月14日
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鑑賞方法:映画館

冒頭から陰鬱な無敵の音が通奏低音となり、観客の心をゆっくりと、しかし着実に蝕んでいく。横柄で傍若無人なベテランと、規則を盾に頑なな新入りとの精神的なぶつかり合いも、ゴリゴリと精神を削っていき負荷としてのしかかってくる。光量の足りない狭隘なスクリーンも集中力を要求し、精神的な疲労を積み上げていく。このように強迫的な描写の全ては、登場人物の狂気を見るものに共有させるための足がかりとして計算され尽くしたものだ。
果たして明日で勤務が終わるというカタルシスが幻に終わり、嵐に閉じ込められた孤島で灯台守二人の狂気が加速していく中で、映し出されるものの幻影と現実の境がぼやけていく様は、完全に術中に嵌った感がある。実際にはウィレム・デフォー演じるベテランは一貫して偏屈なだけで、狂気を募らせているのはロバート・パティンソンの新人の方だけなのだが。

海鳥や人魚といった舞台装置が美しくも残酷な刃として精神を切り刻んでいく様子を追体験しつつ、最後に何を見たのかだけは謎のままとする演出が、ありがちではあるけど後を引く。不穏で不快な画面作りにまんまと乗ってしまうと、本当にただの不快な映画で終わってしまうのだが、それもまた仕掛けなので、どうか心を強く保って最後まで見てほしい。

よしえ