「勧善懲悪モノとしては爆発力がいま一つのうえ、露骨でしつこい逆人種差別にウンザリ」ブラック アンド ブルー 徒然草枕さんの映画レビュー(感想・評価)
勧善懲悪モノとしては爆発力がいま一つのうえ、露骨でしつこい逆人種差別にウンザリ
汚職警官ネタと勧善懲悪ネタ、それに人種差別ネタをミックスさせた作品。いろいろな要素を忍ばせているわりに、焦点は勧善懲悪からブレていないのでなかなか楽しめる。
池井戸メソッドによると、勧善懲悪の基本は次の手順を踏むことにある。
①主人公が悪いものの手によって不当な目に遭い、取り返しのつかない損害を被る。
②主人公は2次被害、3次被害に遭う一方、悪役たちはますます繫栄し、勢力を伸ばして高笑いをする。この間、視聴者には怒りのマグマが休火山の地下深くで蓄積され、徐々に徐々に圧力を高めていく。
③最後に主人公が追い詰められ、ギリギリの場面になったところで、一発逆転の仕掛けによってその正当性が証明され、悪役と立場が見事に逆転し、マグマは水蒸気爆発を起こして、ドロドロの溶岩や火砕流となって悪役たちに襲いかかるw
本作では、汚職警官の不正現場をボディカメラで撮影してしまったヒロインの警官が、その警官たちに撃たれて逃げまどったり、市民から「関わりになりたくない」「こっちに来るな」と邪険にされたり、相棒の警官に裏切られたり、警察の上層部も不正警官のウソに騙されて警察全体が彼女を追ったり、銃創を接着剤で塞いだり…と散々な目に遭う。
やがて警察にも麻薬組織にも命を狙われるようになり、スマホで写真や居場所を流されると、いよいよ追い詰められ、ヒロインが殺されようかという瞬間に、不正の証拠映像がネットにアップロードされて、無実が証明される。そして、悪役たちはあっという間に粉砕される。
というわけでメソッドを忠実に踏襲しており、まずまずのカタルシスを得られる仕掛けになっているのだが、最後の逆転劇に意外性が足りないのと、真相の暴露が麻薬組織と警察上層部と2段階に分かれているので、いま一つ爆発力の殺がれた感が否めない。
この勧善懲悪ネタと並行して、黒人差別ネタが始終繰り返される。
冒頭、新米警官のヒロインが黒人というだけで犯罪者に疑われたり、彼女の友人のスーパー店員も黒人というだけで警察から酷い処遇を受ける。
さらに重要なのは、正義の側はほとんど黒人で、悪役はほとんど白人ばかりという点だろう。汚職警官グループのボスやその手下はほとんど白人だし、黒人がいてもヒロインに同情的だったりする。
対してヒロインも友人の男女もみな黒人である。麻薬組織は全員が黒人で、麻薬犯罪という点では悪なのだが、根は正直で仲間思いのいい奴として描かれている。
中間にいるのがヒロインの相棒の白人警官で、彼は汚職警官グループと通じており、いったんはヒロインを裏切るが、最後は彼女に味方するようになる。
正義の女神である警察の部長は、もちろん黒人女性である。さすがにこの人種差別ネタは露骨過ぎて、正直ウンザリさせられた。ここまでくると、むしろ逆差別だろうと文句の一つも言いたくなる。