「虐げられた黒人達は胸がすくに違いない」ブラック アンド ブルー うそつきカモメさんの映画レビュー(感想・評価)
虐げられた黒人達は胸がすくに違いない
『ブラック アンド ブルー』
よく意味の分からないタイトルだが、ブルーとは警察の隠語で「警官」を意味するようだ。そして、地域の黒人のコミュニティにとっては黒人警官は白人に与する「裏切り者」を意味する。それを端的に表したタイトル。
つまり、味方のいない状況に置かれた彼女が、絶体絶命の危機からどうやって脱出するのかを巧みに描いた骨太のアクション映画で、久々に手ごたえのあるストーリーに巡り合えた。
はじめに気になった難所をいくつか指摘しておきたいが、些細なことには違いない。
まずは、ここまで腐敗した組織に、新人が入って来た時に、その新人を巻き込みかねない犯罪行為をやるだろうか?というデリケートな疑問だ。当然のように主人公の新人警官は正義感に厚く、相棒とは言えちょっとした矛盾から不正行為が発覚する可能性が高い。
そのちょっとしたほころびは、相棒のシフトを代わってしまったことによって組織的な犯罪行為を知ってしまうというストーリーテリングにある。この相棒、ネタバレになるので詳しくは書かないが、善人とも悪人とも言えない。だが、腐敗警官たちの所業には気づいているふしがある。少なくとも、この新人とシフトを代われば彼女にどんなリスクが生じるかを予想することは難しくないだろう。
それから、彼女が犯罪行為に気付くきっかけになったのは、車上荒らしをする黒人を咎めるために待機していたパトカーを飛び出したこと。その時に轟いた銃声で、異常事態を察知する。しかし、あれだけ大きな発砲音なら、車の中にいたとしても誰でも気づく。彼女を車から出させるための方便かと思ったが、この車上荒らしは伏線でもなんでも無かった。まるまるカットしても良かったはずだ。しいて言うなら、丸腰で個人のケータイも持たずに逃げるという状況を分かりやすく説明するための方便に過ぎない。
序盤の緊迫した状況に追い込まれるまでの展開は見事だが、その雑な2点をもう少していねいにつぶしてほしかった。
新人警官ウエストは、警察内部の腐敗警官たちによって命を狙われる。そして、地域の黒人のコミュニティからもはじかれてしまう。それは幼なじみにさえも他人の振りをされてしまうことで巧みに描かれる。
この映画の素晴らしいところは、そうした心理描写のていねいな語り口にある。そして何よりも、アメリカの社会問題になっている、白人警官による黒人への差別的リンチ行為を、巧みに取り入れていることだ。住んだことも無ければ、旅行に行ったことすら無い私には、とうてい理解できないが、やはり黒人の命は一つ下のランクに見られているようだ。それは警察の作戦行動でも、先陣の「弾除け」に黒人を配置することからもはっきりと分かる。
また、傍観者的に多くの黒人の目が注がれる中、開き直ったように自分を正当化する腐敗警官が暴れる印象的なシーンで、壁の落書きまでもが腐敗行為を見つめているのだ。
多くの黒人たちが敵意むき出しで見守る中、白人たちは力で自分の行為を正当化するようにさらに威圧的な態度をとる。いや、取らざるを得ないであろう。
こんな刺激的な題材を見事なエンタメに仕上げた本作は、まさに「ブラック・ライブズ・マター」を伝え聞かされた日本人の私にとっては、時宜にかなった、問題の本質に迫ったおとぎ話となった。
惜しむらくは、コロナ禍で劇場での上映が頓挫してしまったことか。確か、ボックスオフィスのランキングで、10位以内にしばらく留まっていた予告編映像が印象的で、日本での上映を心待ちにしていたのだが、かなわないままセルスルー化されてしまったようだ。
ちなみに、同じ時期に『ボディカメラ』という、若い女性の黒人警官が主人公の映画が公開されていて、この作品と間違えて見てしまった。こっちの方はちょっと残念な出来映えなので、気をつけたほうがいい。
2021.5.7