「観終えるとよくわかるタイトルの意味…!」花束みたいな恋をした ゆめさんの映画レビュー(感想・評価)
観終えるとよくわかるタイトルの意味…!
もう胸が苦しくて苦しくて…。
本作で麦くんと絹ちゃんが感じていたであろう、恋をして世界がキラキラして見える、浮かれまくっている時の気持ちを知っている。
大人にならなきゃと焦っていた時の気持ちを知っている。
次第に2人が感じていた、あのどこにも行けない行き止まりにぶつかってるような感覚を知っている…。
だから2人が付き合うあたりからずっと泣きそうだった。たぶんそれは麦くんと絹ちゃんが、かつての自分に重なったからだ。
たぶん麦くんや絹ちゃんのようなメインカルチャーから少し外れたものを好きな人や、好きなコンテンツをきっかけに好きな人と付き合ったことのある層にはぶっささる内容なのではないかしら…。
好きなアーティストや好きな小説やマンガのことを話して、相手がそれを好きだと言ってくれた時の喜び。
同じもので笑い、泣ける時の親近感。
物事のスタンスや考え方に対する共感。
そして生まれる好意と育つ恋心。
めちゃくちゃわかる…。
そして過ごす蜜月。
2人だけの部屋、可愛いパン屋さんで買う焼きそばパン、手を繋いで観る海、幸せな瞬間しか切り取られていない写真。
パーティーに例えるなら最高潮の時。
この辺りの映像が本当に幸せしかなくて、2人がお互いを大好きなことしか伝わってこなくて、風景が綺麗で、
美しすぎて泣いた。
そして大人になろうと頑張る2人。
仕事を見つけて、2人の生活のためにお金を稼いで。
でも仕事に奪われる時間と心のキャパシティーはどんどん2人を遠ざけていく。
麦くんの「じゃあ、結婚しよう」のシーン、めちゃくちゃ辛かった。尾崎世界観の言葉を借りるなら「愛は行き止まり」という感覚。絶望に似た感覚の中でまだかすかに残る希望を探す苦しさ。これも知っていると思った。
そしてファミレスで2人が別れ話を出すシーン。
麦くんが「恋愛感情がなくなっても2人で家族になればいい。結婚しよう」と言い、絹ちゃんも同意しかける。
「(嫌いになったわけじゃないし、そんなものなのかな)」って自分に言い聞かせて納得しようとしていた。
でもそんな時、かつての2人のような若い2人が現れ、2人はそれを見てしまう。
そこで別れることを決めるシーンが切なくて苦しすぎた。まじで劇場でむせび泣いた。
たぶん2人は、これから普通の家族になるには幸せな瞬間を過ごしすぎてしまった。かつての2人以上の幸せはもうないとわかってしまったから一緒にはいられなかった。
あのシーン思い出すだけでまた涙が出てくる…。
結局、2人は別れてしまった。
2人の恋を主軸に描いてきた以上、この物語の結末だけ見るとバッドエンドになるのかもしれない。
でも私は本作がバッドエンドとは全く思えない。
2人が幸せだった瞬間、心が通じ合った瞬間、美しかった世界は確かにあって、それは本物だったからだ。
イヤホンを片っぽずつ分け合って聴くことをしなくなる出会いを体験したり(しかし面倒臭い大人。笑)、ふとした瞬間に思い出す相手として心に刻まれているのだから。
ずっと一緒にはいられなかったけど、恋は実っていたのだから。
まさに色とりどりの心が弾むような、花束のような恋がそこにあったのだから。
ちなみに本作、コンテンツの用い方もとても秀逸だった。
押井守(まさかのご本人!)、ショーシャンクの空に、魔女の宅急便(しかも実写)村上龍、今村夏子、宝石の国、ゴールデンカムイ、ゼルダの伝説などなどめちゃくちゃ「ああ、そういう感じね!その人はそういう人ね!わかる…!」という用い方をしてくる…!
社会人になった麦くんが「パズドラしかできなくなった」と言った時なんか、それだけで彼の置かれた心理状況がものすごくわかってしまった…。すごい。