「一つの無駄もない」羊飼いと風船 Imperatorさんの映画レビュー(感想・評価)
一つの無駄もない
とても見応えのある作品だった。ラストシーンも素晴らしい。
途中までは、何の映画なのか、そして、なぜ舞台がチベットなのか分からなかった。
カメラが揺れて、見づらい映画だなあとも思った。
しかし最終的には、確かに、舞台は現代のチベットでなければならないことが理解できた。
また、ストーリーだけでなく、“映像”においても伏線があった。それらがすべて回収される、一つの無駄もない緊密な作りであることに気付くのだ。
すべての登場人物に、しっかりした役割があった。
昔堅気の老人。自分の行為の意味が分かっていない無邪気な少年。種付け羊のようなワイルドな夫。
そして何より、途中まで役割が全く不明だった“尼”となった妹も、実は重要な存在意義をもっていたことが判明する。「私のように、罪に苦しまないで。」
羊の放牧と種付け。
風船とコンドームと産児制限。
性に対する“恥の文化”。
俗世と出家と救済。
生と死と“転生”。
それらすべてが絡み合って、結末に向かっていく。
人々の様々な思いを乗せて、青空に飛んでいった赤い風船のラストシーンは、心にしみた。
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