「冒険と記憶」失くした体 andhyphenさんの映画レビュー(感想・評価)
冒険と記憶
手首が思い出を追い、自分を追う。
まず手首を喪った描写が描かれ、何故か目覚めた手首は一心にある場所を目指す。手首の冒険と共に、主人公の青年が負ってきた「運命」が描かれる。
子ども時代の幸福な思い出と、カセットに録音された記録。
両親を事故で喪った少年が、幼い頃の夢を叶えられぬまま、社会の底で生きている。漂うのは無常。空。これが青年の序盤である。
観客は彼が手首を喪うことを知りながら、彼の思い出を追うことになる。ささやかな出会いと恋、仕事に巡り合う幸せ。前向きと見えた物語の裏側で、手首は悪戦苦闘を続ける。
主人公はある意味自己中心的な青年である。本質的にはとても優しく、愛を知っていて感受性も強いけれども、恐らくいくつかの経験が彼を走らせてしまう。思い込みは活力にもなるが、ひとを傷つけ、結局は自分をも傷つける。
走り続けた果てに喪った右手、それが彼の元に辿り着いたとき、過去の一片が明かされ、奇跡を起こす。
何ともいえぬ終わり方だった。逃げ続けるしかないけれど、喪った代わりに何かを得たはずの青年はどこに行ったのか。そこには絶望ではなく儚い希望が感じられる。
最初から最後まで蠅の羽音が頭に残った。音は重要な要素。
「失くした体」は本人を探し続ける。失くしたものに残った記憶を伝える為に。切れそうな絆を結ぶために。だから右手なのかもしれない。まあ、足とかに比べたら、目立たなくて指が使えて動かしやすいのもあるけど。
不可思議なリアリティあるアニメ描写だった。
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