「意外性と伏線回収を楽しむ」悪なき殺人 SGさんの映画レビュー(感想・評価)
意外性と伏線回収を楽しむ
その雪景色が大好きな「ファーゴ」の世界観を思い起こさせるし、"人里離れた小さな町で起こる謎の事件からそれぞれの秘密が浮き彫りになっていく"系の話(何か的確で短いワードないかな?)が大好きなので、予告編を観てからずっと公開を待ち望み、封切り初日さっそく新宿武蔵野館へ。
シンプルな感想だけど… とにかく面白かった!
舞台は南仏のコース高原という雪深い寒村。
大吹雪が明けた翌日、ひとりの女性の失踪事件によって物語は大きく動き出す。
この女性エヴリーヌはなぜ突然失踪し、何者によって殺されたのか。その結末に至るまでの"偶然の連鎖"は時間を遡り、遠く離れたアフリカの地から始まっていた。
母を亡くし孤独に生きる農夫ジョゼフ、彼に心を寄せる人妻アリス、酪農業を営むその夫ミシェル、港町からこの町を訪れる若い女マリオン、5000kmも離れたコートジボワールの旧首都アビジャンで一攫千金を夢見て詐欺グループに属する若者アルマン、そして謎の女アマンディーヌ…。
エヴリーヌとは一見何の接点もない男女の運命が、偶然にも絡まり合って事件へと結びついていく。
一つの事象をそれぞれの異なる視点からチャプターを変えて順番に描く、いわゆる「羅生門」方式(タランティーノが名付けたとされる)を用いたこの作品は脚本と構成が見事で、伏線回収型のミステリーを好む人にも刺さるだろうし、「ファーゴ」とも相通ずるようなブラックでシニカルな喜劇要素も含んでいてどんどん引き込まれる。
「イングロリアス・バスターズ」の冒頭でナチスに脅される父親役が印象深いドゥニ・メノーシェや、「レ・ミゼラブル」(ミュージカルのじゃなくてフランスのスラム街を描いた犯罪ドラマ、これもメチャクチャいい!)で刑事を演じたダミアン・ボナールなど、実力は知ってるけど地味めな役者陣もかなり好み。
今や世界の何処にいてもインターネットを介してつながり合える時代。フランスの寂しい寒村とアフリカの熱く混沌としたストリートの風景の対比が、その不思議な現代の距離感を絶妙に表している。
しかしそこに横たわって見えてくるのは、やはりそれぞれが追い求める理想の愛や欲望に翻弄される愚かで未熟な人間の姿だ。
原題の「動物のみ」は、そんな人間が犯した罪を動物だけ(犬や牛などがよく出てくる)がちゃんと知っているという意味なのか?
邦題の「悪なき殺人」は、必要以上に物悲しい感じ(良心から仕方なく殺してしまった感)がしてしまうので違和感あり。重苦しい人生を背負って行き着いた苦渋の犯罪というニュアンスではなく、勘違いと偶然によって巻き込まれ事件へと発展してしまうどこか滑稽でユーモア溢れるサスペンス悲喜劇と捉えられれば望ましいのかも。
あー、そこに繋がってたんかー
アホやな、こいつー
えっ?犯人じゃないんかい
マジか…
てな具合でその意外性を大いに楽しんで。