劇場公開日 2021年8月21日

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「近代化と民族の多様性」大地と白い雲 杉本穂高さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0近代化と民族の多様性

2021年8月31日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

この世界には、多種多様な民族があり、それぞれに固有の文化がある。あらゆる場所で近代化の波がやってきて、伝統的な暮らしは変わりゆく。
しかし、近代化と伝統的な生活様式は、しばしばバッティングする。それに対して抗うのか、近代化の波にのっかるのかは、コミュニティの住人たちの間でも対応が別れる。そこに変化の時代特有のドラマが生まれる。
本作の場合は、ある夫婦間でその対応が分かれる。主人公の夫は、よりよい暮らしを求めて遊牧民の暮らしに欠かせない羊を売る。対して妻は、このままの遊牧民の暮らしを望む。
ここでしか見られないような広大な草原の風景は実に美しい。対して近代化の象徴として近隣の都市も登場するが、その風景はよくある地方都市の風景である。近代化は、生活を豊かにし自由にもするが、生活を世界中で画一化する。多様性を尊重するが、その豊かな暮らしを選ばせることによって、伝統文化を失わせることにもつながっている。
チベット自治区を舞台にした『羊飼いと風船』では、男が伝統文化を望み、不本意な妊娠をした女性が近代化を希求する。2つを合わせてみると、伝統と近代化の衝突について、非常に深く広く考えさせられるので合わせて観るといい。

杉本穂高