「プロレスというモチーフがもたらしたもの。」ザ・ピーナッツバター・ファルコン バッハ。さんの映画レビュー(感想・評価)
プロレスというモチーフがもたらしたもの。
ちょっと甘すぎるロードムービーだとは思う。予定調和的な作りが、いさかか物足りなさを感じた理由のひとつだと思うのだが、随所随所で予定調和を壊すような不安定さがあり、それが映画の緊張感に繋がっている。ひとつは(ジョージア州で撮影されたらしい)湿地帯というロケーションがもたらす奇妙な異世界感。プロットだけ取り上げると「プロレス教室を目指すお話」なのだが、旅はどんどん文明社会から隔絶され、ファンタジー度を増していくのだ。
そしてたどり着いた先にはこれまた世間から隔絶された人たちが寄り添って暮らしているようなコミュニティがあって、そこで住人たちは青空プロレスを楽しんでいる。本当にこういうコミュニティがあるかは知らないが、本当に異世界に迷い込んだような気になってくる。
主人公が憧れるレスラー役は俳優のトーマス・ヘイデン・チャーチだが、レスラー仲間には本職のレスラー、ジェイク・ロバーツが、そしてレフリー役にはこれまたレスラーのミック・フォーリーが演じている。彼らの複雑な生き様はドキュメンタリー映画『ビヨンド・ザ・マット』や『ジェイク・ザ・スネークの復活』に詳しいのだが、特にジェイク・ロバーツという人物の危うさがそのままクライマックスの不穏さに繋がっていて、メタフィクショナルな効果をもたらしている。するりとアメリカン・プロレスの闇が紛れ込んでくる瞬間に本気でハラハラした。
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