「私は、あなたの少年の日の心の中にいた青春の幻影…。ラ・ラ・ランドで巻き起こる夢追い人たちの痛烈なセッション🎞」映画大好きポンポさん たなかなかなかさんの映画レビュー(感想・評価)
私は、あなたの少年の日の心の中にいた青春の幻影…。ラ・ラ・ランドで巻き起こる夢追い人たちの痛烈なセッション🎞
映画の都「ニャリウッド」で活躍するプロデューサー、ポンポさんの下で働くアシスタントのジーンを中心に、映画制作に情熱を掲げる人々の姿を描く群像劇アニメーション。
主人公ジーンの声を演じるのは『ソロモンの偽証』や『ちはやふる』シリーズの清水尋也。
映画制作に命を賭ける人々のサクセス・ストーリー。
もしこれが実写映画なら、あまりにも現実離れしたシナリオにゲンナリしていただろう。
初監督作品でいきなりニャカデミー賞って…💦
しかもジーンくん、短編映画どころか自主制作映画すら撮ったことが無いっぽいし、脚本を書いた経験すらない。
初監督作品でボーンっ!と跳ねた、しかも映画オタクの監督といえばタランティーノが思い浮かぶ。
でも、タラちゃんだって自主制作はしていたし、脚本だって書いていた。
映画の予告編を作っただけの若者に、ウン千万ドルの費用が掛かるであろう映画の監督を任せるなんて、あまりにもあり得なさ過ぎる。
本来ならこういう主人公を甘やかすような設定&展開は大きく作品の評価を損ねるんだけど、本作はあくまでアニメーション。
しかも大物プロデューサーが子どもという、いかにも漫画らしい荒唐無稽さ。これが映画全体のリアリティ・ラインをグッと下げているので、展開のあり得なさについて辟易することはない。
本作は映画の中で映画を制作するという、一種のジャンル映画。
同ジャンルでは『カメラを止めるな!』のヒットが記憶に新しい。
このジャンルの映画において、制作陣のキャラクターが持つ情熱&楽しいという気持ちが観客に伝われば大合格。
その点、本作はポンポさんやジーン監督、ナタリーやマーティンと言った役者たち、そして裏方のスタッフまでイキイキとした情熱に溢れており、何より全員楽しんでいるということがヒシヒシと伝わってくる。もうこれだけで合格〜💮
しかも本作では「編集」という一見地味な作業をクローズアップして見せてくれる。
編集こそが映画制作のキモであるという表明はなかなかにフレッシュ。映像をカットする時のアニメ映えする表現も含めて、この映画でしか味わえない旨味になっている。
このような、その映画だけが持つチャームを味わえるというだけで、本作を鑑賞する価値は十分にある。
おそらく本作の主人公ジーンのモデルは、映画監督デイミアン・チャゼル。
史上最年少となる32歳でアカデミー賞を制した、現代のハリウッドを牽引する存在の一人。
彼のプロ2作目となる長編監督作品『ラ・ラ・ランド』は、史上最多となる13部門でのノミネートを果たしており、監督賞や主演女優賞を含む6部門を制覇した。
…こうやって書き上げるだけでやべー奴なのがわかる。けど、ジーン君は初監督&20代での監督賞受賞だもんなぁ。やっぱりちょっと盛りすぎてるよなぁ。
チャゼルが監督した長編作品は全部で3作品。
その全てに共通しているのが、「夢を追うものは、その他一切の幸福を切り捨てなければならない」という姿勢。
ジャズマン、若手女優、宇宙飛行士と形は変わるものの、全てこのことが描かれている。
これはもう、そのまんまこの映画のテーマに共通している。
チャゼル作品における徹底した幸福の切り捨てに比べると、本作の切り捨て方はちょっと甘い。
若手女優のナタリーといい感じになってるし、周囲の人間は悉く善人ばっかり。
最後までミューズであるポンポさんの庇護下にあるという状況は変わらなかったわけだし、「切る」という本作全体を貫くキーワードに対してのアンサーがちょっと弱いのは気になった。
ビジュアル面はいかにも今風なアニメと言った感じ。
誰が言っていたのか忘れたけど、キャラクターの輪郭線に蛍光線を入れると、途端にそのアニメは現代的でオシャレになるらしい。
本作にもキャラの輪郭線に蛍光カラーがされ気なく足されている。
だからこそ、ちょっとオタクっぽくも感じるロリ系のキャラデザなのに、そこはかとないオシャレ感が漂っていた訳ですね。
クオリティに問題点はないが、個人的には今ひとつハマらず。
要因は3つ。
①ここぞという見せ場でJ-popを高らかに流す演出がイモっぽい。
庵野秀明や新海誠はこれが上手いんだけど、本作は今一つ上手くいっていなかった。
銀行員のプレゼンシーンと、ジーンがバッサバッサと映像を編集するシーンの2つでこの演出が行われていた。
『シン・エヴァ』のように、ここぞというときの一回だけならいいんだけど、これが複数回使用されていると、モッタリとした鈍重さを感じてしまう。
特に銀行のシーンはなんかメガバンクのCMを観ているような気がして、一気に冷めてしまった。
②銀行の融資がどうたらこうたらのシーン、全部要らん。
原作を読んでいないからわからなかったのだが、ジーンの元クラスメイトであるアランは映画オリジナルのキャラクターらしい。
通りで、全体の流れの中で銀行のシークエンスだけが浮いているように感じたわけだ。
ジーンが追加撮影をポンポさんにお願いするシーン。
土下座をしてまで意思を貫くその漢気や良し!
…なんだけど、そのあと映画の流れが止まってしまう。
90分というタイトなランタイムこそが本作のキモ。
しかし、個人的にはこれがかなり長く感じた。
その原因は、この融資するかしないかで時間を割いたせいだと思う。
ここまるまるカットしちゃえば良いのに。
大体あんなプレゼンダメだろ。ほとんど脅迫じゃん。
あれが良しとされる展開は、リアリティ・ラインの低い作品とはいえ流石に気になってしまった。
③本作で提示される映画論がちょっと押し付けがましい。
個人的に120分以内のランタイムこそが至上という意見には賛成。映画を観始める前に必ずランタイムを調べるのだが、その時間が120分を超えているとウゲッ🤢ってなる。
自分の考える至高の上映時間は100分!何故なら『カリオストロの城』の上映時間がこれだから。これより短いと物足りないし、これより長いとうんざりしちゃう。
とはいえ、これは勿論ジャンルや監督によって変わる。
『アベンジャーズ/エンドゲーム』なんて180分ですら足らんと思ったし、来年公開予定の宮崎駿の新作ならたとえ上映時間が300分だとしても喜んで鑑賞する。
現実世界に満足している奴はクリエイターの資質がない、という意見もまぁわかるんだけど、あんまりこういうレッテルを貼るのは好きじゃないなぁ。
色んな奴が色んな作品を作るから業界全体が盛り上がるのであって、リア充じゃ碌なもんは作れないという閉鎖的な考えにはうーむ…と思ってしまう。
この理論だと愛妻家や子煩悩なクリエイターは、全員クズだということになるような。
疑問や葛藤を抱かない人間ではクリエイターとしてはスカだと思うが、それはリア充かどうかとは関係ないし…。
これはポンポさんというキャラクターの意見であり、これが絶対の正解だと提示しているわけではない。
とはいえ、どことなく説教臭さを感じるのはポンポさんの対立軸となるキャラクターがいないからだろう。
おそらくポンポさんは原作者の意見を代弁する存在であり、それが透けて見えるからなんか嫌な感じがするんだろうなぁ…とおもう。
長々と書いたけど、何度もグッと涙が込み上げてくる場面もあった。
やはり夢に向かって邁進する若者映画は心に沁みる。
特にナタリーの直向きさにはやられた!…まぁこの程度の演技で主演女優賞とっちゃダメだろとか思ったけど。
ポンポさんはジーンにとって、映画が具現化したような存在。
ジーンから彼女に向けられる想いは恋愛感情とは違う。
それはもっとプラトニックで、映画に逃避していた少年の日を思い起こさせる憧憬のようなもの。
だからこそ、映画を逃避ではなく現実世界で戦うための武器としたジーンの手の中から、ポンポさんは飛び去る。
メーテルやハルハラ・ハル子など、少年を導き独り立ち出来るようにするも、最後は颯爽と立ち去ってゆく、というアニメ・キャラクターはベタといえばベタだが、やはり必要な存在ですねえ🚂💭💭💭
ジーンはポンポさんの為だけに「MEISTER」を作り上げた。大衆に受けるかどうか、金が儲かるがどうかなどは完全に度外視。
だからこそ、この映画が大ヒットするという展開にはやっぱり疑問が残る。
どんな映画を観ても満足できなかったポンポさんが満足したということは、この映画はどんな名作やヒット作とも違うということ。
であれば、そんな作品が大衆に受け入れられるとは思えない。
世間からはそっぽを向かれるが、ポンポさんにだけは突き刺さった、という展開の方が物語上納得がいくんだけどな…。
いろいろとハマらないところもあったが、おそらくクリエイターや夢を追う若者はきっと大好物な映画!
一見の価値はあり!