「「ゴーストワールド」のオフビート感を再現」サラブレッド 徒然草枕さんの映画レビュー(感想・評価)
「ゴーストワールド」のオフビート感を再現
高校を卒業する前後の社会に適合できない少女2人を描いた映画といえば、「ゴーストワールド」が思い浮かぶ。そこに登場したゾーラ・バーチ、スカーレット・ヨハンソンに、やはり不適合な成人男性スティーブ・ブシェミの3人組の、この社会の「どこか違う」感に訴えてくる笑いと悲哀は、深く印象に残っている。その印象をひと言で表現すれば、<オフビート>ということになるだろうか。
本作「サラブレッド」は恐らくその焼き直しだが、とてもよく出来た焼き直しとなっている。「ゴースト~」3人組は、ここではオリヴィア・クック、アニャ・テイラー=ジョイ、アントン・イェルチンに置き換えられ、三者三様の社会との不適合ぶりから生まれるオフビート感を味わわせてくれる。
表題「サラブレッド」は、馬のエリート転じて富裕層のドタバタ劇であることと、役に立たなくなった馬をさっさと屠殺することの二重の意味を持っている。
アマンダ(オリヴィア)は家の持ち馬を、骨折して気の毒だという理由で、非常に残忍な方法で屠殺して問題児扱いされ、本人も「自分には感情というものがない」と考えている。
リリー(アニャ)はいい学校に入学して優等生ぶってはいるものの、実際は富豪の継父のカネによる裏口入学で、ネットをパクったレポートを提出して退学になった問題児であり、継父からはことあるごとに叱責されている。
二人は幼馴染だが、再会したら話は自然にリリーの継父殺害計画に展開する。そこに登場するのがティム(イェルチン)。彼は成人女性に相手にされず高校生をレイプした前科があり、今はヤクの売人だが、大人相手の売人にはなれず高校生相手に小銭を稼いでいる絵に描いたような小者。「将来はこの界隈を仕切る売人になる」が口癖である。
社会的不適合の少女2人が、腰抜けの小者に殺人依頼をするわけで、その状況だけでも面白いのだが、このティムはいざという場面で、案の定、尻尾を撒いて遁走してしまう。
そのままではリリーは問題児を集めた学校に転学させられ、卒業後は継父の支援もなしに放り出されてしまう。そこで彼女は、深夜独りで継父を殺害し、睡眠薬入りのカクテルで意識不明にしたアマンダに罪を着せてしまう。これはとてつもなくシリアスな話なのだが、実はアマンダはそれを承知でカクテルを飲み干すのである。
リリー「あんた感情がないんでしょ? だったら幸福にもなれないし、生きる価値なんてないんじゃない?」
アマンダ「考えたことがなかったけど、価値ないわね。これ、飲んじゃうわ」
そして、継父殺害は成功、リリーによって血塗れにされたアマンダが犯人扱いされ、殺人犯として刑務所にぶち込まれるが、「ここにはいい人が多いし居心地も悪くない」という手紙をリリーに送ってくる。
腰抜けティムはこの一件に懲りて駐車場の係員となって働いているが、そこにリリーが高級車で乗り付ける。腰の据わった犯罪者リリーが腰の引けたティムを揶揄い、ニッコリ微笑んでメデタシメデタシで終わるのだった。
こうストーリーを書いていても、この映画の面白さは到底伝わらない。結局、本作の面白さは、状況や会話の唐突さ、意外さ、ズレまくったタイミング等々にあり、それらが「オフビート」感を醸し出しているのである。
ただ、「ゴーストワールド」が深い悩みを抱えた不適合少女を来世行きのバスに乗せて、最後に悲哀を残したのに対して、本作は継父殺しの少女が誰に憚るところなく大金を使いたい放題でニンマリしているところに視点の違いがあり、残す印象は本作の方がかなり軽い。それは映画の出来不出来というより、好き嫌いということになるだろうか。
以上の本筋とは別に、本作はいろいろなコスチュームを身に纏ったアニャの魅力を見せつけるという側面があって、彼女のファンにはとても楽しい映画になっている。監督、わかってるじゃないかw