劇場公開日 1989年10月29日

「無味無臭の「丁寧な暮らし」」キッチン いたりきたりさんの映画レビュー(感想・評価)

2.5 無味無臭の「丁寧な暮らし」

2025年11月21日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

国立映画アーカイブの特集上映「映画監督 森田芳光」にて鑑賞。本作は、およそ生活臭が払拭された居住空間を主な舞台に、若い女性が無印良品のように「丁寧な暮らし」を送ることによって喪失感から癒されていく話だ。

今観ても浮世離れした設定の主人公を演じる川原亜矢子は、そもそも身体性が無味無臭なので、ズブの素人丸出し演技でもそれが「一種の味」になっていると言えなくもない。

が、しかし彼女と同じくモデル出身で相手役に抜擢された松田ケイジの方はイケナイ。ギクシャクした表情が無自覚に貼りついた身体性、ベタベタしたせりふ回し。これがどうも鼻について物語に集中できない。「俳優」としては同じく素人の入船亭扇橋が大家の役で出てきても、普段から寄席の高座で客の視線に晒されているから、違和感など微塵も感じさせないのとは対照的だ。

一方、「づめさん」こと橋爪功はさすがに堂々と演じ切り、自然体を表出させている。加えて、そのどこかに「小川真由美っぽさ」がうかがえた、と言ったら勘ぐり過ぎだろうか。

そのほか気になったのは、橋爪功の彼氏さん役で出演していた四谷シモン。どこかでも書かれていたが、その風貌がどうも森本レオか寺門ジモンを連想させて仕方ない(3人そろって名前もカタカナ表記だし…笑)。

それはともかく、なんでもない日常の部分だけを切り取ってダラダラ見せるドラマというのは、当時のトレンドの一つだったのだろうか。本作を観て、1988年から91年まで放送していたテレビドラマ『やっぱり猫が好き』を思い浮べたりしたのもそのせいだ。

また、本作で食卓にのぼる料理が物語上、重要な要素となっているところなどは、『きのう何食べた?』に代表される今日の「料理ドラマ」の先駆けなのでは、とも思った。なんでも、当時としては珍しくテーブルコーディネーターや料理担当の専門家(今で言うフードスタイリストのことか?)が本格導入された1本らしい。今ほど、調理する手の動きや料理そのものが大写しに抜かれたりはしないけれど。

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いたりきたり
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