「映画を現実に引き戻す」トップガン マーヴェリック のむさんさんの映画レビュー(感想・評価)
映画を現実に引き戻す
本作を見て、2022年の第94回アカデミー賞において作品賞にノミネートされた『ベルファスト』の中で、『チキ・チキ・バン・バン』を見た主人公家族がまるで映画に引き込まれていくように演出されていることを思い出した。映画とは常に「現実の延長線上にあるもの」だということを再認識させられる。
CG全盛の現代映画に対する一つのアンチテーゼとして、本作が今日の映画界に与えた影響は大きい。もちろん、イマジネーションを映像と言う形で具現化するCGの役割は計り知れないものがある。私自身もMCUなどのCGをフルに使った映画も大好きだし、本作でもCGは使われているであろう。しかし、それは「空想の世界」であって、どこか地に足のついていないものになってしまう可能性もはらんでいる。『ザ・バットマン』のレビューでも、同様のことを書かせていただいた。
トム・クルーズの「とことん自分でやる。とことん本物にこだわる」という姿勢には脱帽せざるを得ない。このリアル志向は、今後の映画界の一つの潮流になるのではないかと感じている。ラストシーンを飾るアレが、トムの私物というのも「どこまでホンモノなんだよ」と感心する。ジョセフ・コシンスキー監督の次回作『Formula One』でも、同様のスタイルで撮影されたF1レースシーンが見られるとのことで、今から楽しみで仕方がない。
キャストに関しては、助演のマイルズ・テラーが、ここでも輝かしい存在感を放っている。顔はそこまで似ていないはずなのに、あの口ひげは正直似合ってないぞと思うのに、どんどん「グース」に見えてくるのが面白かった。これは演出の勝利である。そういえばどこかメグ・ライアンの面影もあるような……。少し背の低いマーヴェリックと、上から覆いかぶさるように猫背で話す雪原での会話シーンで、なぜか前作のグースを思い出し、落涙してしまった。
ストーリーに関して、ポリティカル・コレクトネスが重要視される現在において、また、ウクライナ情勢など緊張が高まっている中においては、どうしても疑問符が生まれてしまう。描かれるものは軍事作戦であり、さらに先制攻撃、奇襲攻撃である。いくら核施設の不当な設置であっても、攻撃してよいわけではない。その点を批判する声が上がることも当然である。本作も、前作同様「戦争映画」ではなく、「スポーツもの」「チーム内でのナンバー1を決める」映画として作られているように感じるので、そういった方面に対する目配せがあまりできていなかったのかなと思う。そもそも論として、映画、ひいては創作物において、我々受けて側がどれだけイデオロギーを排除して受け止めるか、そのリテラシーについても考えなければならないと感じた。その点で、-0.5点で採点させてもらいます。
85年生まれの私は、前作『トップガン」に少し間に合わなかった世代である。90年代から2000年代にかけて青春を迎えたものとして、あの80年代独特の、悪く言うと軽薄な感じが肌に合わなかったのもあり、本作に対する期待値はそこまで高くなかった。しかし本作は、作り手の熱意、それにこたえた俳優人たちの努力が詰まった良作であることは間違いない。スマホではなく、タブレットではなく、テレビ画面ではなく、映画館、できればIMAXで見るべき映画である。