「36年の歳月の積み重ねが、スクリーンの中にあり、同じようにこちら側にもあるのです 一緒に歳を重ねてきたという感慨が深くなり、単なる航空アクション映画で終わらない味わいがあるのです」トップガン マーヴェリック あき240さんの映画レビュー(感想・評価)
36年の歳月の積み重ねが、スクリーンの中にあり、同じようにこちら側にもあるのです 一緒に歳を重ねてきたという感慨が深くなり、単なる航空アクション映画で終わらない味わいがあるのです
軍事マニアです
中学生の頃から、航空雑誌とかを読み耽ってきたくちです
監督のジョセフ・コシンスキーも同じくちのようです
細部にまでよくわかっている感がビシビシと伝わってきます
というか軍事マニアの厳しい重箱の隅をつつくような突っ込みを受けてたってやるぐらいの気合いで撮っているとわかります
考証担当のスタッフが用意したものを漫然とそのまま撮っていません
逆に監督自身がこれおかしいだろと考証担当に突っ込んでいるくらいの知識と勢いを感じます
かといって、軍事マニアだけを相手にしたクドいシーンはないのです
そんなものを観たいなら軍事ドキュメンタリーを観れば済む話です
本作は娯楽作品なのです
それも超ド級の
だから、敵地からの脱出シーンからは、そんなアホな!の連続なのです
それでも軍事マニアは許せていまいます
分かってやっているというのがしっかり伝わっているからです
何もわからずに単に面白いからそうしたとは決定的に違うのです
むちゃくちゃなんだけど、押さえるとこはチキンと押さえてあるのです
そこに次元の違う娯楽の世界が広がっているのです
まず冒頭の極超音速機ダークスターのエピソードは、1983年の映画「ライトスタッフ」のオマージュです
1947年の人類初の超音速突破、高度記録に挑戦時に制御不能になり脱出して生還の二つの話を、本作では合体させて置き換えているわけです
このダークスターが実に良くできています
細部にいたるまで軍事マニアが唸るものです
大道具さんがこの曲面は難しいし予算もかかるからと勝手に似て非なる平面の組み合わせにしてしてしまうような凡百の映画とは全く異なります
ダークスターをいくら予算が掛かっても徹底的に作り込んだのは、この機体をみたら本作全体のクォリティーの印象がそれだけで判断されてしまうものだからです
このダークスターの形状は全くそれらしいものです
それもそのはず、老舗戦闘機メーカーのロッキードの秘密兵器開発部門の通称スカンクワークスが設計したものだそうです
実際にマッハ10飛行での成層圏巡航攻撃/偵察機の計画が進行中で、最近発表されたイメージ図に似ています
コクピットの窓枠がギザギザになっているのはレーダー波を乱反射させてステルス性を確保する為です
塗装がカーボンブラック一色なのも実は意味があります
あの砂漠の中の試験用飛行場は多分エリア51です
UFOが墜落してというのは都市伝説です
このような秘密兵器の試験をしているから立入禁止区域なのです
ところでピートはなぜここにいるのでしょう?
偵察機は基本空軍ですから、海軍のピートがこのプロジェクトを担当しているのは変なのです
こういう秘密兵器は米国国防総省国防高等研究計画局(DARPA)で実際に試験されるものですから、きっとピートは海軍からこのDARPAに出向中だったのだと思います
恐らくアイスマンことトム・カザンスキー海軍大将が国防総省にピートをねじ込んだに違いないのです
トップガンの教官を辞めたとき彼は何歳だったのでしょう?
現役部隊の隊長とかで復帰するにも年を食い過ぎ、行き場所がなくなっていたのでしょう
普通ならそのまま退役です
ピートは何歳なのでしょうか?
トム・クルーズと同じなら59歳
手柄の数なら劇中の台詞どおり、准将か少将になっていて当然なのに、大手企業でいうと執行役員か取締役クラス
今の階級は大佐、大手企業なら部長クラス
ここではプロジェクトのリーダーなのでしょう
それでも十分出世していると思います
近くの廃格納庫に単身で寝泊まりしているようです
彼が趣味でレストアしているのは、第二次世界大戦中の傑作戦闘機P-51 ムスタングです
結局、この秘密兵器開発部門からも首になります
普通ならここで肩叩きがあって退役でしょう
ですが、またもアイスマンが助けてくれてトップガンに舞い戻るのです
ノースアイランドというのは、ロスの南方200キロ弱の軍港サンディエゴにある海軍基地のこと
前作の時のトップガンはすぐ近くのミラマー海軍基地にありましたが、今はここに移転しています
ダークスターの試験飛行のときのスタッフが、トップガンにも一緒に赴任して来てます
空母にも帯同しています
きっとピートの下で何年もいた部下達なんでしょう
アイスマンはマーベリック組として部下ごと異動させていたのです
前作から今作までの36年の歳月を、なんだか普通の人間の人生を重ね合わせられるものにもなっている優れたシナリオです
同期で一番でそつのない奴は出世して、今や海軍大将で艦隊司令長官、会社でいえば本社の事業本部長、専務取締役です
海軍省や国防総省にも顔が効くのです
でもピートに後悔はあるかというとないのです
やりたい仕事を全力で熱意を持ってやる
つまらないデスクワークとか軍隊内の社内政治なんかやりたくない、そんな人生を歩んだのですから
誰もがアイスマンにはなれないのです
ピートの生き方は男のもう一つの憧れの生き方です
後進を育て、最後にもう一花咲かして終わる
男に取って最高の退場を実現する物語でもあるのです
でもアイスマンみたいな後ろ盾がないとたちまち本作みたいに行き場を失うのも確かです
前作のシャーロット・“チャーリー”・ブラックウッドは登場しません
彼女は前作では30歳位でしたから、いまは66歳ということになります
彼女とは結局別れたみたいです
ペニー・ベンジャミンは新登場の女性です
しかしながら彼女はじつにチャーリーに似ています
どうかするとこの人チャーリーだったけ?と混乱してきますが、これは監督の狙い通りですね
彼女は50代中頃にみえます
ということはピートより5歳くらい下です
前作で、司令官のお嬢さんに手を出したとか、ピートの昔の彼女の名前で、ペニーの名前がでていました
司令官のお嬢様が基地の近くで、飲み屋のオーナーするか?とは思いますが、結構裕福そうで趣味で飲み屋やってるみたいです
それもトップガンの訓練生の面倒をみたいためにだけに
しかもアイスマンの葬儀にも呼ばれているということは海軍の高位の関係者のはずです
きっとそのペニーです
でも彼女の娘は彼とは血のつながりはなさそうです
葬儀のシーンで、ピートは自分のウイングマークを棺に打ち込みます
飛行章つまりパイロット有資格者のバッチです
「死んでもお前は俺のウイングマンだ」という意味です
編隊の最小単位は2機編隊
僚機のことをウイングマンというのです
まあ人生いろいろあります
こういう36年の歳月の積み重ねが、スクリーンの中にあり、同じようにこちら側にもあるのです一緒に歳を重ねてきたという感慨が深くなり、単なる航空アクション映画で終わらない味わいがあるのです
本作の戦闘機はF/A-18 スーパーホーネットです
F-18 でなくF/A-18と書くのは、戦闘機と攻撃機も兼る機種だからで、爆撃も得意だからです
トムキャットの特徴的な可変翼ではありません
あれはなかなか優れものなのですが、重くなり整備も大変なのです
基本一人乗りの単座戦闘機です
トムキャットは2人乗りの複座機でした
当時はコンピューター化が進んでおらず操作スイッチや計器やらが多過ぎで、2人乗りにして後席にレーダー迎撃士官(RIO)が乗って対応したのです
前作では相棒のグースがRIOでした
それがコンピューター化が進んで、一人乗りで対応できるようになったと言うわけです
スーパーホーネットの2人乗りの機体は練習用の複座機を改造した爆撃任務専用の特別仕様機です
後席には兵装システム士官(WSO)が乗ります
海兵隊専用で少数しかないので、今回の作戦用に特別に貸し出ししてもらったのでしょう
前作のトムキャットは戦闘機の中でも特に大型でした
車で例えるならアメ車のムスタングです
スーパーホーネット(通称スパホ)は、結構小型で使い勝手の良い戦闘機で、車ならプリウスです
そして第5世代戦闘機はポルシェみたいなものです
トムキャットとかは第4世代機です
スパホはそれより進化しているので4.5 世代機と言われます
F-35 とかのステルス戦闘機が第5世代機です
レーダーに映りにくい上に、圧倒的な空中機動力があります
世代が違うと下の世代の戦闘機は手も足も出ません
劇中の敵の第5 世代機のモデルはロシア製のスホーイSU-57です
劇中凄まじい空中機動を見せてピートをたまげさせています
実物がウクライナ侵攻で出撃していますが、まだ数機しか量産されておらず大した活躍はしていません
第5世代のステルス戦闘機はレーダーに映りにくく、鳥どころか虫より小さいくらいにしか映りません
肉眼で見えているのにレーダーには見えないからミサイルがロックオンできないのです
赤外線対策もされていて、赤外線誘導方式のミサイルも真後ろにつかないとロックオンできないのです
もしステルス戦闘機同士が空中戦をしたら一体どうなるのでしょうか?
すぐ近くでいきなり出くわして、結局空中戦になるのではと言われています
だからやっぱりトップガンは必要なのです
なのでピートは第5世代戦闘機からなんとか切り抜けることができたのです
でも劇中でもこれからは無人機だともいわれています
ウクライナ戦争でも偵察や爆撃任務に無人機が大活躍しています
戦闘機はまだ有人ですがその時代は目前でしょう
米軍の模擬空中戦では、AI の操縦する無人機が有人戦闘機に圧勝しているそうです
無人機の時代は間違いなく来るでしょう
そのときトップガンは、古き西部劇のガンマンのように消えてなくなってしまうのです
稼働前の核施設への隠密攻撃は、なにやら本当に近々日本のすぐ近くの国に行われそうな作戦です
1981年のイスラエル空軍のバビロン作戦がモデルです
16機の戦闘機が、イラクの完成前の原子炉を爆撃したのです
対空砲やレーダーを避けて、バグダッド近くまで奥深く侵入して、精密兵器がまだない時代で無誘導の爆弾を16発中14発も命中させ稼働前の原子炉を全壊させています
帰路は敵戦闘機の迎撃にも会わず全機無傷で帰投しています
劇中の渓谷の稜線より低く飛ぶ訓練
四国や青森の山間部の谷間を縫うように超低空飛行する米軍戦闘機が偶に新聞記事になることがあります
あれは本作と同じ訓練をしているのです
かなり前の四国の事件では谷間を渡してあるケーブルを引っ掛けて切断したと問題になりました
つまり谷間の稜線より下を飛行していたからです
撃墜されたピートを襲うヘリは、ロシア製のMi-24ハインドです
こいつがでてきたら戦車でも100%やられます
ところが、ウクライナ戦争では携帯ミサイルで簡単に歩兵に撃墜させられています
トムキャットが輸出されたのは、革命前の親米政権時代のイランだけです
イランには結局トムキャットが1979年の革命まで79機も納入されました
もう部品も輸入できないので、共喰い整備をしたり、独自に部品を自作したりして現在でも30機程は実際に稼働しているそうです
なのでスクランブル待機状態のトムキャットが目の前にあれば分捕って離陸する事もあながち荒唐無稽でもありません
もちろん、あの国にはトムキャットはありませんし、第5世代戦闘機も今のところ存在しません
最後に本作の字幕にでる軍事用語が実に的確で嬉しい驚きでした
元航空支援集団司令官空将 永岩俊道氏の監修だそうです
前作公開当時は宮崎県の航空自衛隊新田原基地のF15イーグルの教官をなさっていた方です
しかも岩国基地に飛来してきた米海軍のF14トムキャットと、日米共同訓練を日常的にやっていたというすごい方なのです
日本にもトップガンがあります
石川県の小松基地にある飛行教導群、通称「アグレッサー」部隊がそれです
今年1月末、墜落事故がありマーベリックのような52歳で現役最年長の部隊司令であった1等空佐(大佐)と後席のもう1名の自衛官の方が殉職されています
ご冥福をお祈り致します
マーヴェリック✈️軍事面からも解説いただきありがとうございました。
とっても分かりやすく、なるほど!と何度も頷きました。しかも面白いレビューをどうもありがとうございました!
また来週3回目観に行ってきます。