「アリ・アスターの狂美祭」ミッドサマー 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
アリ・アスターの狂美祭
高い評価を得た『ヘレディタリー/継承』だが、一般観客の評価は賛否両論。かく言う自分もそう。そのオリジナリティーや戦慄さは認めつつ、なかなかに難しく理解し難い点もあった。
が、アリ・アスター監督はその長編デビュー作で一気にホラー界の最注目株になった事に異論は無い。
そんな彼の長編第2作目である本作も、すでに賛否両論巻き起こしつつ、再び観る者を衝撃のホラーの深遠へ誘う…。
突然の悲劇に見舞われた女子大生のダニー。
妹が引き起こした無理心中で、両親もろとも家族を亡くしてしまう。
たった独り残され、心に深い傷とトラウマを抱え、立ち直れないまま…。
心がボロボロで一見か弱そうだが、ちとイライラウザく、面倒臭そうなダニー。私の事は心配しないでと言いつつ、私の事をもっとよく見て、私の事をもっと構ってと言わんばかり。
そんな彼女の支えになるべきの恋人クリスチャンだが、今ダニーと微妙な関係。別れを切り出そうにも、彼女の今の状況から切り出せず。数日後の彼女の誕生日すら忘れている始末。
クリスチャンは友人のペレから、ペレが育ったスウェーデンの人里離れた森の奥のコミュニティへ誘われている。このコミュニティを大学の論文にしようとしているジョシュ、そこで女遊びしか考えていないマークら友人と共に。
優柔不断なクリスチャンはダニーにこの事を話していない。ダニーにスウェーデン行きがバレ、ダニーも気を紛らわそうと参加する。
微妙で何処かちぐはぐな関係のまま。
そして訪れた村“ホルガ”は…。
ちょうど90年に一度の夏至祭“ミッドサマー”。
白夜で24時間白日の大地。
その地は、花々に彩られた美しき“楽園”。
大自然の中で気ままに、白い衣に身を纏い、その土地に根付く風習に身を委ねながら、暮らす人々も来る者拒まず。
さながら“理想郷(フロンティア)”。
都会で暮らす若者はやはりどうしても魅了される。
殊に、傷心を抱えた者は。
学生なので、煩悩の某一人を除いて、この村に遥か昔から伝わる風習や伝統は興味深い。
…が、それも夏至祭当日まで。
すでに暗示されていたかもしれない。
そもそもこのホルガに漂う、フロンティアと表裏一体のカルト的風習の不穏さ。
村あちこちにある壁画やシーツのペイティング。よくよく目を凝らすと、芸術的でありつつ…。
ダニーらが車で村近くに立ち入った際、カメラが上下逆さまに。
まるで、我々の常識は通用せず、覆される、と言わんばかりに…。
厳かな雰囲気で始まった夏至祭。
高い岩壁に登った男女2人の老人。
突然…!
そこから飛び降りた…!
驚愕するダニーたち。
が、村人たちは平然。
これは村に伝わる聖なる儀式。
生を自ら終え、その生を次産まれてくる生へ。
ここから、狂気の祝宴の数々が続く。
性交が認められた一人の村の少女。クリスチャンを誘う。手作りのケーキに入れた“モノ”は…!
夏至祭のメインイベントとでも言うべき村の少女たちによるダンス・コンテスト。倒れるまで踊り、踊り抜いた一人が新たな“女王(メイ・クィーン)”になる。強制的に参加させられたダニー。
クリスチャンは村の老女たちに見守られる中、少女と強制的に性交の儀式。
そして、新たな女王の誕生と共に締め括られる夏至祭。身の毛もよだつ最後の儀式を笑みと共に見つめる新たな女王とは…。
もう一度。我々の常識は通用しない。
遠い昔、北欧や欧州で実際にあった風習をヒントに創り上げた衝撃の“アリ・アスター祭”。
ホラーと言うと暗いシーンが当たり前だが、その固定概念を覆す白夜の明るさが斬新な悪夢を見せる。
明るい故、残酷描写はショッキング過ぎ。崖から飛び降りた顔面ぐちゃぐちゃの人体損壊、斧で頭をかち割れ、赤と黒と鉛色のようなドス黒い血…。(うへ、自分で書いてて気持ち悪くなってきた…)
しかし、映像は幻想的なまでに美しい。皮肉のように。
村の建物や衣装もあたかも“存在”するのように。
何もかも緻密に構築されたアリ・アスターの世界と才気!
『ヘレディタリー/継承』同様、本作も自分の中で賛否両論。引き込まれつつ、難しくも。
多くのレビューではよく分からないとの声が多いが、でもそれで当然。くどいようだが、我々の常識は通用しないのだから。
キャストではやはり主演のフローレンス・ピュー。
精神不安定な序盤から、この村の異様さに恐怖。さらにまたまた内面変化。
お見事!
実は彼女の演技や作品をしかと見るのは本作が初めて。これだけでも充分だったが、女の子レスラーに扮した『ファイティング・ファミリー』やオスカーノミネートの『ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語』を含めれば、そりゃあ一躍ブレイク&脚光を浴びるわ。
今年は『ブラック・ウィドウ』もあるし、これから楽しみな逸材の中でも特に大注目!
ある村の狂気の祝宴が話題だが、本作はダニーのドラマである。
物語始まった時、彼女の心は崩壊しかけていた。
独りぼっち。恋人に癒しも感じない。
そんな時訪れたこの異様な地。
最初は恐ろしかった。
今すぐにでも帰りたかった。
が、この地に居場所を感じ、この地の人々から手を差し伸べられる。
そして、この地のある座に就く。
それは彼女にとって、救いだったのか…?
新たなる悲劇と狂気の始まりなのか…?
アリ・アスターは次、我々にどんな戦慄の招待状を送ってくるのだろう…?
「ウィッカーマン」と似てると聞き「ウィッカーマン」を観たのですが、
「ミッドサマー」の狂熱美の方にずっと魅力を感じました。
白夜の狂熱・・・明るさと影のない世界が新鮮に感じました。
次作も楽しみですね。
(読んで下さってありがとうございます)