「まぶしくてこわい」ミッドサマー 津次郎さんの映画レビュー(感想・評価)
まぶしくてこわい
フローレンスピューは短躯でたくましい印象です。strong willな顔つきと相まって、強そう。健康美と太いパーツに新しい魅力がありました。かなり寄って映しますが、こまかい顔芸で自在に心象をあやつっています。
展開が巧みですいすいと進みます。トイレへ行くと言って、そこはもう航空機内トイレです。行程をうまく端折って、倦みを回避しています。
描写が寓意をはらんでいます。とうてい羅列できませんが、怪しさを重ねて観る者を煽ります。
カメラがよく動きます。固定しないトラッキングで、それが人物の動揺をあらわし、かつhorribleな空気をつくっていました。
よく映画を見ていると思います。
『アスターはその頃を回想して「僕は行ける範囲の全てのビデオ店に行き、その店のホラー映画コーナーにあった映画を片っ端から鑑賞した。』と監督のwikiに書かれていました。その博覧強記が画からほとばしっています。
光のおびただしい映画でした。おそらくもっとも色調の明るいホラー映画だと思います。それが闇よりも怖いことを知りました。
下にいる者の喫驚だけが映るなら、わたしもなんともなかったのですが、落下滅裂が、しかも見たこともないほどリアルなそれがあり、そこへ加えて、長大な胴突きで顔面を粉砕します。何年かぶりに見たtraumaticな衝撃でした。
屍体とその損壊のリアリティが半端ではありません。
終局、まるでタラのテーマのようなオーケストラのうしろで見たこともない狂乱が拡がります。
いっぱんに、ホラー映画とは、演出新参者のビギナー枠だと見られているふしがあります。しかしイットフォローズやゲットアウトやこの監督の前作、今作を見ると、かれらが、そのジャンルをすこしもあなどっていない──ことを痛烈に感じます。
新しい恐怖を考案したから映画をつくったわけです。たまたま世間においては、それがホラーに種別されますが、この、恐怖と不安が140分つづく新しい映画体験を、枠内で片付けていいとは思いません。
いま(2020/6)、おりしも政党をも擁するわが国最大規模の新興宗教団体が製作した映画が、解禁のどさくさで邦画興行のトップに躍り出ています。
映画をめぐって、この驚天動地の格差を反面視しないことは立派なことだと思います。