「衣装の変わらない絵本的演出が面白い」今さら言えない小さな秘密 つとみさんの映画レビュー(感想・評価)
衣装の変わらない絵本的演出が面白い
原作は絵本らしい。なるほどねと思った。この作品が面白い理由は絵本的な演出にあるからだ。
登場人物の服装が基本的に変わらない。ちょっとしたマイナーチェンジはあるもののずっと同じなのだ。
子どものときからオーバーオールの主人公ラウルは老いてもずっとオーバーオール。結婚式のときでさえオーバーオール。
自転車選手のソヴールなんか老いて引退しても日頃からレース用ユニフォームのままだ。
年齢に応じて役者が変わってもキャラクターを認識しやすい効果があるだけでなく、単純に笑えて面白いのがいい。
内容は誤解と雷撃によるコメディで、些細なすれ違いが雪だるま式に大きくなって、本当に「今さら言えない小さな秘密」となる。
秘密の中身が自転車に乗れないことだと観る前から知っていたので、それだけのことでどうするのかと思っていたけれど、これがなかなか奇想天外な方向(主に雷撃)に進んで悪くなかった。
そして何より、何となくでもハートウォーミングな感じに着地するのがいい。
父親の仕事を継がなかった男の偽りの半生の物語であり、ただの普通の男の幸せな半生の物語でもある。
誰もが親の仕事を継いでいく町の中で、自分の秘密保持のためとはいえ自由に好きなことをする異端児ラウルの物語であり、英雄譚でもある。
秘密と秘密が生んだ奇跡の一枚というのは誰にでも起こりうるのではないか。だってラウルは、写真家のエルヴェも、特別なことなどないどこにでもいる平凡な男だったのだから。
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