「ロイス・レーンやジミー・オルセンを見つめる高校野球版『ブレックファスト・クラブ』」アルプススタンドのはしの方 よねさんの映画レビュー(感想・評価)
ロイス・レーンやジミー・オルセンを見つめる高校野球版『ブレックファスト・クラブ』
念願の甲子園夏の大会に出場した埼玉県立東入間高校野球部。1回戦の対戦相手は強豪平成実業高校。生徒総出で応援する中、演劇部のやすはと田宮はアルプススタンドの隅っこでつまらなそうに試合を眺めていた。そこにやってきたのは元野球部の藤野、そして帰宅部の宮下。そんな4人のところでもっと腹から声を出して応援しろとハッパをかけに来た厚木先生。やたらにハイテンションな先生にローテンションのツッコミを入れる4人は試合が進むにつれて自身が抱える悩みや葛藤に向き合わざるを得なくなってくる。
これはヤバイレベルの傑作青春映画。
青春映画の金字塔『桐島、部活やめるってよ』と同じく、本来であればドラマの中心人物は姿を見せず、その周りにいる何者でもない普通の高校生達を優しく見つめるドラマ。言うなればゾッド提督と戦うスーパーマンを見つめているロイス・レーンやジミー・オルセンの物語。劇中で何度も溢される“しょうがない”という呟きの向こう側にあるルサンチマンを突き破るように響く金属バットの音。4番ピッチャー園田のテーマとして青空の下で高らかと奏でられる『TRAIN-TRAIN』。試合が進むにつれて登場人物の心情が少しずつ詳らかになり、劇中に響く様々な声や音がそこに集う人達の魂と共鳴するクライマックスで思わず泣き崩れました。
個人的に一番印象的なのは、ずっと学年トップの成績だった宮下と彼女を破った吹奏楽部部長の久住の確執。絶望的な現実を突きつけられる宮下を演じる中村守里の、眼鏡の奥に光る澄んだ瞳と透き通るような白い肌に青春の理想と現実を見ました。
とにかく邦画史に残るべき傑作ですし、今年観賞した作品で文句なしのベストワンです。