「戦車乗り達の『ショーシャンクの空に』」T-34 レジェンド・オブ・ウォー よねさんの映画レビュー(感想・評価)
戦車乗り達の『ショーシャンクの空に』
モスクワに程近い前線基地司令部に食糧補給に向かったロシア軍士官イヴシュキンは野戦病院と司令部を撤退させる陽動作戦の為たった一台残されたT-34の指揮を任される。夜明けの小さな村で待ち受けるイヴシュキンら4名の戦車乗りの前に現れたのはナチスのドイツの戦車中隊だった。
3年もの間強制収容所の捕虜となり7回の脱獄を試みたイヴシュキンに与えられた任務は戦車隊の強化を急務とするナチスの模擬演習でT-34の指揮を執ること。捕虜仲間からならず者の戦車乗りを3名選んだイヴシュキンが実弾装備のないT-34で打って出る決死の作戦に身体中の血が滾る!
昨今の米国産戦争映画だと殊更ナチスの鬼畜ぶりが前面に押し出されて安い勧善懲悪に陥りがちですが、本作は冒頭の陽動作戦でイヴシュキンと対決した士官イェーガーの存在感が印象的で、お互いに実力を認め合いながら対峙する構図が物語にガソリンを注ぎます。イヴシュキン配下のステパン、ヴォルチョク、イオノフ、強制収容所のロシア人通訳のアーニャというキャラクターも丁寧に描いているので彼らが持ち込むエモーショナルなドラマが幾重にも積み重なって手足が震えるくらい泣きました。
冒頭に注意書きが出ますが、本作ちょっと妙な作りになっていてドイツ語のセリフにロシア語の吹替音声がオーヴァーラップする、同時通訳を聞いているような演出が施されています。最初は物凄く違和感があるんですがそれに慣れたところでその演出の意味が無言で語られるという物凄く粋な仕様にもなっています。
あとイヴシュキンを演じているアレクサンドル・ペトロフがティム・ロビンスに似ているので、どことなく『ショーシャンクの空に』のような爽快感も漂っています。物凄い傑作です。