「肝心のクライマックスで盛り上がれない退屈感」犬王 beast69さんの映画レビュー(感想・評価)
肝心のクライマックスで盛り上がれない退屈感
作り手もキャストも結構有名で良さそうな人選なだけに・・・・、期待し過ぎてしまいました。前半の半ばからテンションが下がっていき、クライマックスでは退屈で眠くなるという映画。正直言って、つまらない失敗作だと感じました。
設定が明らかに手塚治虫の名作「どろろ」なんですが、オマージュなのでしょうか。
序盤はそこそこ良かっただけに、惜しい。
のちに犬王の相方となる友魚が、盲目の琵琶法師になる過去のエピソード。奇形に生まれて孤立無援の犬王が、自由な舞を踊り、生を謳歌する華麗な姿。「この先、どうなっていくんだろう?」と、ワクワク感が高まる良いオープニング、という印象でした。
ところが、それ以降は引き込まれるような、グッと胸をつかまれるようなシーンがなかなか出てこない。心に響くような名場面が無いまま、時間だけが長く進んでる事に気づいて唖然。
この映画、悪い意味でヤバいかも・・・と不安になってきました。
後半になると、もうストーリーとかよりも、長いフェスティバルそのもので魅せる事を主体としている感じ。その肝心の楽曲が長い割に単調で、魅力が足りなくて、やたらと冗長過ぎる。肝心の歌詞も聞き取りにくくて、何を歌ってるのか分かりづらくて、字幕が必要なレベル。歌詞が全部しっかり聞き取れたという観客は、殆どゼロだと思われます。
映像の中だけは凄く盛り上がっているように見せているのだが・・・・それを観ている自分は全く盛り上がれず、共鳴が出来ないという困った事態になってしまいました。
監督はここを一番の見せ場のクライマックスとしているのだろうけど、それを効果的にやるのであれば、ヒットチャート上位に毎週入るほどに魅力的な新曲を持ってくる必要があった。しかし、それが出来てないので、なかなか引き込まれない。単調な楽曲をえんえん長く聴かされると、だんだん苦痛も生じてしまいます。まだ続くの・・・、早く終わらないかな・・・と思うばかりで、終いには眠気が生じてきました。
私は筋金入りのロック好きなので、ロックオペラ風の大胆な試みは大賛成なのですが、映像に出ている和楽器の音が小さかったり、かき消されているのが勿体なく感じます。和楽器も大音量で積極的に取り入れる方向で、この映画ならではの独自性を感じさせる楽曲を作り上げていたら、斬新さも魅力も増して良くなったのでは・・・と思いました。
このライブ・シーンの展開の仕方は、映画「ボヘミアン・ラプソディ」を意識したのかもしれないけれど、これでは音楽そのものに今ひとつ魅力が足りないため、無理があり過ぎました。
それよりはストーリー展開の方を充実させてほしかった。
主演の2人、犬王と友魚がお互いに魅かれた部分が何処なのか、そういう大事な部分での描写が足りないので感情移入がしにくいし、物語の本筋から外れた話に時間を使い過ぎてる気もして、どうにも世界観に入り込めずに、退屈さが増しました。
そして、物語の最後のオチ。
ネタバレは避けたいので言及はしませんが、これがまた酷いもので、呆れてひっくり返りそうになった次第。最初は興味深く見られた犬王の独自な生き方が、最後の土壇場で一貫性の無いものに変えられてしまった失望感。
アニメ映像としての視覚的な部分では見事なシーンがあったし、抜粋としてなら良いシーンもあるので、楽しめる要素はそこそこあるのだが、この映画で何を伝えたいのかという本質的な部分で、ちょっと違和感を感じたし、物足りなさを覚えたまま、モヤモヤした気分だけが残りました。心に残るものが無く、この作品を通して何かを伝えたいと言う映画としてのメッセージ性は薄いと感じました。
映画館に行くと、周囲の観客の反応を肌で感じる事が出来るのが、メリットのひとつです。上映中、観客の数が多かったにしては、全体に余り盛り上がってない空気が伝わり、終わった後の様子も何処か陰鬱な感じ。本当に面白かった映画の場合、終演後に観客から明るい笑顔や高揚感が多く見られますし、初日に観た「トップガン マーヴェリック」では、エンドロール後に大勢の観客から大拍手が巻き起こった程です(私も凄く良い映画だったので、一緒に拍手に加わりましたw)。この映画ではそういうのが見られず、イマイチ微妙な映画を観た後、という感じの虚ろな空気感でした。この映画、原作は未読なのですが、監督の料理の仕方がダメだったんでしょうか。感動が得られないし、とても人にはオススメ出来ません。
あと蛇足ですが、隣に座っていたオタク風の男性客、鼻息がうるさくて、最悪でした。静かな場面になると、この客の鼻息だけが大きく「フースー、フースー」聞こえて、うるさ過ぎ。今までの人生で、誰からも注意されなかったのか?それとも、注意されても人の話を一切聞けない人?他にも混雑してるのに通行の邪魔をして平然としている40代風カップルとか、普段は余り見かけない変な客が目立ちました。この映画に出ているキャストのファンなのでしょうか?この映画館は比較的マナーの良いお客さんが多いのですが、本作では客層もちょっと気になりました。