劇場公開日 2019年8月24日

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「柔らかくて優しいアイスクリームのような声」ジョアン・ジルベルトを探して Imperatorさんの映画レビュー(感想・評価)

2.5柔らかくて優しいアイスクリームのような声

2019年9月1日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

自分自身、「イパネマの娘」など、ジョアン・ジルベルトは数え切れないほど聴いてきた。「デザフィナード」は、ジョアン以外には考えられないほどだ。
にもかかわらず、有名なボサノヴァ誕生のエピソードよりも後の時代の、ジョアンの活動についてはよく知らなかったので、伝記的要素を盛り込んだ音楽ドキュメンタリーを期待して観に行った。

だが、ジョアンの人生や音楽活動の歴史の話は、ほとんど、いや、全くなかった。
「そんなことは、十分知っているよ」という“ハイレベル”な観客のための映画で、ちょっと面食らってしまった。
映画の元となった本の著書だけでなく、監督自身もボサノヴァのファンなので、ファン目線で描かれたマニアックな作品である。音楽ドキュメンタリーの体裁はなしておらず、一般の観客など黙殺している。

“ホームズ”が“ワトソン”とともに、ジョアンの具体的な痕跡を探してかぎ回るような展開がダラダラと続くので、いささか眠くなる。
とはいえ、ジアマンチーナの町で「便器の上で生まれたボサノヴァ」を体感したり、マルコス・ヴァーリ(!)からジョアン体験談を聞くところなどは良かった。
「を探して」が題名だが、おそらく意図的なミスリードだ。「に会いたい」とした方が、内容的には正しい。監督は、最も身近な関係者にさえ、問題なく会えているのだ。
「最後の一歩」がどうしても届かないという、もどかしさが全編を貫く。

「会えないから、“憧れ”や伝説となっている」という、歪んだ構図はむなしい。
また、選曲も「オバララ Ho-Ba-La-La」や「想いあふれて」等だけで、他の名曲・名唱の多くが流されないというのも寂しい。
この映画で、ジョアンの歌の素晴らしさが伝わるはずはなく、“ボサノヴァ人気再燃”は来そうにもない。

Imperator