劇場公開日 2020年2月28日

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「嗚呼、愛しき。」架空OL日記 KinAさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0嗚呼、愛しき。

2020年3月6日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

嗚呼、愛しき我が日常。
嗚呼、愛しき其方の日常。

日常を愛させてくれる映画が好きだ。
劇場を出るといつもの街並みやいつもの私がいつもと違って見える、そうさせてくれる映画が好きだ。
「架空OL日記」は間違いなくそのような映画だった。

100分間、私はたしかに「みさと銀行」で働くOLで、今この時、私はたしかに某紳士服店で新人として働く自分なのだ。
ひたすらに繰り広げられるOLたちの会話と「私」のボヤきと少しずつ進んでいく時間に乗り、全てを自分に投影するような、作品に入り込むような、そんな視点で観ていた。客観視なんてできようもない。

バカリズム扮する「私」が職場に通い、働いたり同僚とくだらない話を延々と繰り広げたりし、たまに休み、特に何かするでもない日を送る。
それだけ。本当にそれだけ。ゆるやかな展開はもちろんあるけれど。
大袈裟なドラマなんて必要もないのだ。

微妙なバランス、絶妙な具合を保って進んでゆく日々。
「あるある」だけど「あるある」には納まらない。それは一種の理想郷なのかもしれない。
もしかしたら、いやもしかしなくても、表には出さないほんの少しのチクチクがあって、でもなあなあにしてしまえる空気感も感じたりして。
みんなでいるのが心地良いのって、何よりじゃない?

冒頭の起床シーンが好き。
何カットもやり直す報告シーンが好き。
酷いあだ名の上司の悪口言いまくるのが好き。
友達の友達にちょっと嫉妬しちゃうの好き。
お小峰様コール好き。
よくご飯食べてるの好き。

もう全員全員大好き。細かいフレーズもシーンも全部全部大好き。どうしようもなくヘラヘラしちゃう。好き。
私のだらしなさが私を救う。
今必要なのは真実じゃない、矛先。
ちょっと空気の読めないけど素直な子。
わかるわかるわかるわかる〜!!!!!

この映画が秀逸でワザありなのが、ラストに用意されたサプライズだと思う。
正直打ちのめされた。
ぽやぽやに緩まった頭を金属バットでフルスイング殴打された気分になった。

でも、それで良かった。
それが無かったら私はきっと「みさと銀行」の中に永遠に閉じ込められていたと思う。
桃源郷には長居しすぎないほうが良い。
いや全然、私の過ごす日常はとっても幸せだし仕事大好きになれたし職場の人たちも大好きだし一人暮らしも楽しいし、全然、逃げたいことなんて無いんだけれども。
それでも、あの中にずっといたいと思わせる物凄い吸引力が作品にあったと思う。

終始ニヤニヤ笑いが止まらず、終盤は謎に号泣してしまい、表情筋をミシミシと痛める羽目になった。
ちょっと驚くくらい嵌まってしまった。
ドラマを全く観ていなかったので、Huluで観ようと思う。

嗚呼、愛しきみさと銀行。
また会えるなんて嬉しいな。

KinA