「テーマや取り上げ方は良いが・・・」朝が来る キッスィさんの映画レビュー(感想・評価)
テーマや取り上げ方は良いが・・・
子どもに恵まれなかった夫婦に養子を斡旋し、子育てを始める。そこで起こる典型的子育ての苦悩、養子だと周囲に伝えておくという苦悩を乗り越えて幸せな日々を送っていたが、ある日産みの母親が子どもを返して欲しい・できないならお金が欲しいと要求してくる。
通常だと、養子に迎えた幸せの家庭を描くことが中心となってくるが、さまざまな事情で育てられない母親側の苦悩やその周囲の苦悩まで描かれているのは新鮮である。
産みの母親がお金を要求するのは、同僚の借金の保証人になってその返済に困ったからではないか、と安直に想像できるが、それだけではない産みの母親が子どもに会いたいという思いも乗せてぱっと見では意味不明とも思える行動をとったのではないかと思える。
すべての俳優が本当の家族、心底苦悩する、というのが痛いほど伝わる演技で見入ってしまう。
と、ここまでは通常の感想。
河瀬直美監督お得意の風景、特に木々に風が当たっているような場面が転換時や何か気持ちを表すかのように入っている。効果的に入れるのであれば良いが、それが多用されると「今度は何の気持ちが投影してんの?」とツッコミたくなり、げんなりしてくる。
育てられない母親の経済状況、生活状況は決して良くないだろうというのは想像できるが、進学せずに落ちぶれていき、ちょっとグレ気味の風貌になるのは一昔前のような印象が拭えない。借金の保証人に知らないうちにさせられているのも一昔前によくあった設定。産みの母親の側を描くことはとてもよい視点だけにもったいない。原作は読んでいないが、設定がそうであったなら、脚本で現代の設定に置き換えるべきだろう。
警察が事情聴取で来たのを最後に持ってきて引っ張ったものの、捜索人のことで聞きたいという薄っぺらい内容はちょっとがっかり。もっと深いものがあれば展開としてよかったのに残念。最後の展開で2人の母親と子どもが会うシーンで終わるが、養子先の住所を簡単に見られてしまうという初歩的ミスからのもので、そう考えると感動が半減してしまった。
作品の取り上げ方はいいのに、いくつか残念な点が見え隠れした。次回作も風景が要所要所にはいるのだろうか。