「重要な作品と思われつつ、もっと面白くなるはずの惜しさも」Winny komagire23さんの映画レビュー(感想・評価)
重要な作品と思われつつ、もっと面白くなるはずの惜しさも
(完全ネタバレですので必ず鑑賞後にお読み下さい)
Winnyの開発者に対する刑事裁判は当時も非常に重要な裁判であって、題材としても非常に興味深く、名作になる予感が鑑賞前にはしていました。
しかし、予想に反して名作あるいは傑作までは届かなかった作品の印象を鑑賞後には持ちました。
その理由は、この映画において対立構造がきちんと構成されて描けていなかった点にあると思われました。
例えば、本来検察は、容疑者の取り調べなどの捜査を担当する検事と、裁判において公判を担当する検事は、分かれています。
しかしこのWinnyの開発者である金子勇さん(東出昌大さん)の刑事裁判では、取り調べを担当した伊坂誠司 検事(渋川清彦さん)が裁判(公判)も担当するという検察の力の入れようが描写されます。
しかし、伊坂誠司 検事はその後の裁判では登場しなくなり、ここでも伊坂誠司 検事との対立構造は雲散霧消しています。
例えば、その後の裁判において、北村文也刑事(渡辺いっけいさん)に喋らせ過ぎたと、壇俊光 弁護士(三浦貴大さん)らが林良太 弁護士(池田大さん)を責める場面があるのですが、それによってその後の裁判がどのように不利に働いたかは描かれません。
逆に主任弁護士の秋田真志 弁護士(吹越満さん)が、北村文也 刑事の嘘を裁判での証言でピン止めする場面が描かれますが、それによってその後の裁判がどのように有利に働いたかも描かれません。
例えば、この裁判において、プログラム開発者vsあくまで金子勇さんは犯罪を犯したと主張する警察・検察、という対立の構図で警察・検察側の主張がきちんと描かれていた訳でもありませんでした。
つまり、映画としては、しっかりとした、金子勇さん・弁護団vs警察・検察の対立構造の裁判や描写にはなっていないのです。
確かにリアルな裁判においてはそんな対立構造がある訳ではなく、淡々と物事は進んで行くのかもしれません。
しかし映画において対立構造は(もちろんリアリティある範囲で)必要です。
そして、この映画『Winny』は、対立構造はどの場面も肩透かしを喰らうのがほとんどだったと思われました。
いじわるな言い方をすると、映画『Winny』においての対立構造の頂点は、壇俊光 弁護士(三浦貴大さん)が「この逮捕勾留は正しかったと胸を張って言えますか?」と検察に対して声を荒げる予告映像だったと思われます。
もっと警察・検察、あるいはプログラム開発者に無関心だった世間などに対して、対立構造を示す脚本構成はあり得たのではないか、もっとこの映画は面白くなる余地はあったのではないかと、その点では残念には思われました。
(弁護団と、警察・検察とのがっぷり四つの対立を描けないからこその、仙波敏郎 愛媛県警巡査部長(吉岡秀隆さん)の裏金告白を、金子勇さんの刑事裁判と並行して描いた、今回の映画の作品構成であるとも思われました。)
しかし、この映画を通して金子勇さんの少し一般とは違う人柄の魅力を伝えることに関しては成功はしていたとは思われました。
また、金子勇さんのプログラム開発者としての時間を奪った刑事裁判の罪深さと、今後は開発者に対する刑事事件化のハードルは歴然と上がっただろうこの裁判の意義深さも、十分伝わる映画だったと思われました。
それらの点も加味して今回の評価になりました。