劇場公開日 2023年3月10日

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「この映画の述べたいであろう「真の趣旨」は別のところにあるのでは?」Winny yukispicaさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0この映画の述べたいであろう「真の趣旨」は別のところにあるのでは?

2023年3月11日
PCから投稿

今年77本目(合計729本目/今月(2023年3月度)12本目)。

1時間差でみた今週の本命作であろう本映画です。
WinnyはIT技術者であればもちろん、当時は社会をにぎわした事件であるので、知っている方も多いのではないか、と思います。

「表向き」はタイトルがそもそもWinnyですし、Winnyを扱っている部分もありますが、個人的には「第二、第三の論点が見え隠れしているが、(大人の事情で)表向きに出せなかった」のではないか、換言すれば、「この映画の主義主張は他のところにあるのではないか」と思えます。

採点としては特に差し引く要素までは見当たりません。
多くの方が書かれている通り、第一審(地方裁判所)しか描かれていないのも、下記に述べる「この映画の真の論点」に焦点をあてたという解釈をすれば至極当然の話であるからです。

 なお、以下は、行政書士合格者レベルでの理解と採点、ほか補足説明や私見によるものです(反対意見ほか大歓迎です)。

 (減点なし/参考/「ほう助」について法律事務所で聞いているシーン)

 ・ 日本には「刑法」という法律があり、学説をとく本では「刑法総論」と「刑法各論」の2部構成(あるいは2冊)になっていることが多いです。前者は「どのようなときに罰せられるのか、罰するべきものは何か、あるいは「ほう助」とは何か「共犯」とは何か」といった総論的なもの、後者は「個々の刑罰(例えば、殺人罪や傷害罪ほか)について各種の展開をしていく」という構成になっているのが日本の伝統です(ただ、本格的にこれを学習するのは、司法試験(予備・本試験)以外ありません)。

 しかし、「ほう助とは何か」は映画内でも示されている通り、学説上の対立が非常に激しく、また判例も一貫していない部分があります(具体的な事件ごとにコロコロ変わっている)。この「ほう助」については学説の対立があり、「理解の難しいところ」であるのは確かです。

 (減点なし/参考/「判例を調べる」の部分)

 ・ 日本の裁判制度では「判例」といった場合、最高裁判例を指すのが普通です(これに対し、高等裁判所以下のそれを「裁判例」といって使い分けるのが普通です)。

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 ▼ この映画が真に伝えたかったことは何なのか

 もちろん私は映画監督ではないので、一人の資格持ち、あるいは一人の鑑賞者としての意見になります。

 本映画でWinnyが題材にはなっていますが、Winny「それ自体」の技術的な論点ほかはほとんど映画内では前提になっていません。むしろ、「特定の警察組織」に関することばかりが多く取り上げられています(ネタバレ回避でぼかしています)。

 翻って日本を見ると、現在においても、「法の解釈を誤った間違った逮捕・拘留」といったものはある程度見られます。それは人がやることなので「ある程度は」仕方がないところです(だからといって、警察官が怠けてよいという理由にもならない)。

 しかしこの映画の「とある警察組織」のように、「そもそも根底論から無茶苦茶な警察組織」ではまともな裁判は展開できません。この映画は固有名詞が出るように、その大筋において史実と同じです(正直、国民目線からすればあきれるレベルでしかない)。「単なる誤認や勘違い」と「警察の支離滅裂な公権力の行使」は分けて考える必要があります。この映画はもっぱら後者を問題視したもので、ほか、リアル日本で「多くの人がこれは変だろう」と思えたであろう「無茶苦茶な事件」としては、「鹿児島県警の「踏み字」事件」などがあげられます(詳しくはネット参照。あまりにも無茶苦茶すぎて地裁で警察内部が裁判官から論破されて地裁で確定している)。

 この映画は、そのような「あまりにも支離滅裂、やる気もなければ不正行為もモラルのかけらもないやる気ゼロ」の警察組織に対するメッセージではなかろうか、というのが個人的な意見です。

 そしてそのような批判は、「常識的な範囲であり誹謗中傷等にあたらない限りにおいて」は日本では言論の自由で保障されますし、映画での上映においても同じです。また、映画内で出る「プログラム作成を通した自己表現の自由」や「報復を恐れる意味での匿名性を維持したソフトの開発」も、結局は「言論の自由」に帰着されます(「匿名性の確保」をどう考えるかは難しいですが、匿名性を盾にとって誹謗中傷を繰り返す類型と、匿名性を担保したうえで内部告発等を行う類型は、明確に区別する必要があります。今でも報復を恐れて内部告発ができないケースはあるからです。そして後者には「ある程度の妥当性」が認められるべきものです)。

 要は、この映画はタイトルこそ「Winny」であるものの、結局のところ「あまりにも支離滅裂がおかしい警察組織へのメッセージ」、あるいは、「表現・言論の自由は「基本的人権の王様」と呼ばれるように最大限尊重されるべき」という立場で作られたものなのだろう、というところです(もしこれが気に入らないなら、その映画内で参照されている「特定の都道府県の県警」が抗議などしていると思うので)。

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 長くなりましたが、この映画の「真のテーマ」はこのように別のところにあり、Winnyというタイトルは「ひとつの出来事のひとつにすぎないのではないか」というのが個人的な見方です。このように解すれば、「ストーリーが妙なところで終わってしまう」等も理解ができるので、個人的にはこの立場です。

yukispica
いぱねまさんのコメント
2023年3月12日

失礼します

さすが整理された素晴らしい批評だと感服致します
付け加えて、今作は金子氏への人となりを通じた天才性の表現の一つなのではと愚考致しますし、実際、制作陣はそう強調しているようです
そしてそれ以上に作劇の作りが、縦軸を複数本設定する事で、良く言えば重層、悪く言えば敢えて解り難くすることで厚みと叙情を担保させているのではないだろうかと・・・
後は、貴レビューの通り、匿名性、堅牢性、秘匿性の功罪をテーマとして掲げているのも、解り難い分、追いかけたい衝動を喚起しているのではないだろうかと、穿った見方も(苦笑
只、このトレンドが続くと、分かり易さ、分り難さの分断が顕著になってしまう危険性も指摘したいと思います

雑文、失礼しました

いぱねま