ドリーミング村上春樹のレビュー・感想・評価
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ドリーミング・メッテ・ホルム
原題はドリーミング・ムラカミ。
恵比寿ガーデンシネマでみた。
世界一の幸福度をフィンランドと競う国デンマーク。北欧、東欧、西欧の中心に位置する。ドイツの上、ノルウェーとスウェーデンの下の島だらけの国。国土面積は日本の約11%。人口は日本の約1/20。
かのデンマークでも人気の村上春樹。世界50ヵ国以上で翻訳されているという、その熱気を少しだけ理解した。一ファンを超えて村上春樹伝道者であるメッテ・ホルムと村上の関係は、松岡佑子とJKローリングの関係に少し似ている気もする。
この映画には一秒たりとも村上春樹本人は出ない。熱烈な村上春樹ファンの若いインド系の男性監督が、あくまで同じデンマーク人で年上の異性のメッテ・ホルムに密着取材したドキュメンタリー。国際的で、ジェンダーレスだ。
日本に取材にきている部分が半分くらいか。繁盛してない寿司屋など、日本では見れない映像を見れた。
上映時間は1時間と短く、関わった製作スタッフもかなり少ないと思われる。パンフによると日本での公開も当初は予定されてなかったと書いてある。つまり、英語圏向けの低予算ドキュメンタリーである。
CGのかえるくんがリアルで不思議な雰囲気を出している。ただ、このキャラクターの台詞は、機械音の男性が喋る日本語で、音が加工してあり演出に違和感を感じた。
内容は、コアなファン向けのもので、一般の方にはほぼ分からないだろうと私は感じた。
JKローリングも受賞しているアンデルセン文学賞を村上春樹が2016年に受賞したので、王立図書館の大ホールで村上と翻訳者であるメッテが対談するという、大イベントの開始直前までを映画は切り取る。
すこし緊張感がある。
この辺りは、事前に知っておいた方が良かった。すごく大事なことだ。
対談の内容はものすごく気になる。しかし、メッテ・ホルムという、偉大なる読者にして、村上春樹の理解者が異国デンマークに生まれたことこそ興味深い。各国の翻訳事情なども興味のそそられるテーマだ。
残念ながら、私は「かえるくん、東京を救う」を読んでいないため、ところどころ、すごい疎外感を感じたのだった。必読の書だということを恥ずかしくも知らなかった。
いずれ、また鑑賞したい。
翻訳家という黒子の知られざる真実-メッテ・ホルムの場合
ひと言で言えばインタレスティング。
20年に渡り村上春樹作品を日本語からデンマーク語に翻訳するメッテ・ホルム女史のドキュメンタリー。メッテさんは作家の母国語から自分の母国語への直接翻訳にこだわり、彼女が村上作品独特のパラレル・ワールドに挑んでゆく姿が描かれている。
若き日に川端康成の小説と出会い日本へ。『ノルウェイの森』で村上春樹を知り、デンマーク人初の村上春樹・翻訳家となった。初期三部作『風の歌を聴け』の翻訳をする現在を追いかけた形でドキュメンタリーが進行。鼠の解釈、ピンボールの構造、ドアの閉まる音、バーでの会話、デンマーク版のブックデザインの打ち合わせや注文など、彼女の村上春樹を理解・解釈する旅への密着取材が面白かった。
世界が保守・右傾化傾向にあり、若者の内向化を憂う気持ちも語られていて、彼女が社会派である一面も感じられた。そして、市井の日本人と村上作品への深い愛を語り合う場面はとても印象的だった。
作品の表現を一度自分の中に取り込み、感覚的なものを咀嚼したうえでトランスレートしようとする、作家へのリスペクトと、小説という創造物に対する彼女の深い想いがあり、映画はそれを淡々と静かに描いていました。例えば私が様々な海外文学を楽しんでこれたのは、このメッテさんのような素晴らしい日本人翻訳家がいてくれからなんだよなぁと感じた。
黒子といえば黒子、でもその黒子の力があるからこそ世界中で異国の作家の本が楽しめる。普段あまり知らされていない翻訳家という人たちの世界、その苦悩と格闘と達成をあらためて教えてくれるそんな映画でもありました。もちろん、作家でありながら翻訳家でもある村上春樹、彼の作品を愛する人も興味をそそられる映画に違いないと思いました。
デンマークでの『アンデルセン文学賞』受賞記念で組まれた村上春樹とメッテさんの対談は映画に収録されていなくて、ファンとしてはちょっと観てみたかったなぁというのが本音。もしかしたら、そこにはマスコミに姿を現さない村上春樹の意向もあったかもしれない。上映時間もあっという間で、こちらももう少し長い編集を観ていたいと思いました。今日から公開です。
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