「漫画的であり、アニメ的であり、描写が面白い作品」思い、思われ、ふり、ふられ(アニメ版) スキピオさんの映画レビュー(感想・評価)
漫画的であり、アニメ的であり、描写が面白い作品
この映画の良さはアニメ的な描写と漫画的な描写を上手に組み合わせている点。これは実写では絶対に出来ない。アニメと漫画の国に生まれて良かったな、と思わせる秀作です。
冒頭、実写版と同じく梅雨の情景。このアニメはひたすら雨や雪が多いです。そういうモヤモヤした話ですよ〜と、冒頭から。で、タイトル前のラストカットが、雨模様の空と水溜りに映る青空、のシーン。このカットがうまい!
雨模様なのに水溜りが青空ってのはあり得ないですよね、つまり「嘘をつきますよ」という前振りなんですね。表面的には雨でも内面は晴れていたり、その逆だったり、そういう話ですよ、って冒頭で出す訳です。
また、その次の由奈と理央の出会いのシーン。白い蝶が舞っていると、その先に絵本で見た王子様が理央の姿で登場。蝶々は魔法や幻想の象徴=記号ですよね。ここで由奈は恋の魔法にかかりますよ、って暗示です。
魔法なんで、理央が情けないダメ男でも、一途に恋してしまうので、そこはツッコまないで、てこと。
この2つを冒頭の5分ぐらいでやられると、もう引き込まれてしまいます。あと、由奈の最初の告白でのお花畑からの土砂降り。由奈のデフォルメした心情描写。それと対になるのが、学園祭での由奈と理央が階段で抱き合うシーン。理央の嫌いな雨が大きな玉粒になって、キラキラと輝きだす。実に見事なアニメ描写です。
また、漫画的な描写がうまい。少女漫画でよくある、目が点になったり、急にデフォルメしたりするのを、惜しげもなく使う。
無地の背景に短冊状にカットを割って傘が舞うシーンとか、左右カット割で止め絵口パクだけで進行するとか。大胆に漫画描写を入れても、テンポが狂わず、リアリティも損なわない。
声優は由奈役の鈴木毬花が頑張りました。実写の由奈役の福本莉子も良かったけど、アニメの鈴木毬花は、本当に引っ込み思案な当初の由奈にどハマりでした。他の主要キャラは朱理が潘めぐみ、理央が島崎信長、和臣が斉藤壮馬という油の乗り切ったベテラン揃い。
正直、大丈夫かぁ〜?と思っていましたが、とんでもない。よくまあ、リアル由奈を見つけたなぁ〜と思うほど、脳内ボイスと合致していました。
この話って、やっぱ由奈が主人公なんですよね。和臣は迷いながらも初めから持っている夢に向かって進む。朱理は家族という失ったものを取り戻す。理央は捨てきれない思いを捨てる。と、3人は既に始まっている物語の中にいる。
一方で由奈は、さっちゃんと別れて、なーんにも始まっていないのです。それが理央と朱理に出会って、どんどん成長していく。それが周りからも分かるぐらいで、モブキャラから告白されるぐらい、可愛くなっていく。だから、これは由奈の成長物語なのかな、と。
由奈が主役なのでエンドクレジットも、市原由奈 : 鈴木毬花、が先頭なんですよ。実写の方は忘れましたが、たぶん、山本朱理 : 池辺美波、でしょう。アニメの場合はキャラ優先なので、ど新人だろうが、主役キャラがトップになれる。ってか、実写はやっぱ池辺美波の朱理が中心でしたよね。
実写、アニメと立て続けに見るほど好きな原作でもなかったので、期待していませんでしたが、観て良かったです。先日のヴァイオレット・エバーガーデンのような大作感はないですが、アニメの良さが伝わりました。やっぱアニメはいいな〜。