「18世紀のフランス、ブルターニュの孤島。 画家のマリアンヌ(ノエミ...」燃ゆる女の肖像 りゃんひささんの映画レビュー(感想・評価)
18世紀のフランス、ブルターニュの孤島。 画家のマリアンヌ(ノエミ...
18世紀のフランス、ブルターニュの孤島。
画家のマリアンヌ(ノエミ・メルラン)は、孤島の領主である伯爵夫人(ヴァレリア・ゴリノ)から娘エロイーズ(アデル・エネル)の肖像を描く依頼を受ける。
自殺した姉に代わって、ミラノのさるお方のもとに嫁ぐことになったエロイーズ。
前任の男性画家には最後まで顔を見せることがなかったことから、伯爵夫人は、マリアンヌをエロイーズの散歩友だちと偽って、散歩途中の観察に基づいて肖像画を描くことを提案する・・・
というところからはじまる物語で、三人に加え、若いメイドのソフィー(ルアナ・バイラミ)を加えた四人で展開される。
18世紀の女性たちの抑圧された愛と葛藤を描いた物語は古典文学の趣があるが、セリーヌ・シアマ監督によるオリジナル脚本。
カンヌ映画祭で脚本賞を獲得したのも、そのあたりにあるのでしょう。
個人的には、物語よりも演出的に驚かされたところが多々ありました。
最初の散歩で断崖に立つふたりを横から捉えたショット。
並んだふたりは互いに相手の顔を見ようと顔を振り向けるが、互いに視線を交わすことがない。
マリアンヌが描くエロイーズの最初の肖像のシーン。
なにかしらいつも抑圧され、憮然としていることの多いエロイーズでありながら、描かれた肖像は健康的で若さに溢れるもの。
エロイーズ(=健康的な、の意)の名前そのものから、「規律、しきたり、概念・・・ そういうものが肖像画には求められる」と職業画家として語るマリアンヌに対して、「この肖像は、わたしに似ていない。あなたにも似ていない」と言い放つエロイーズ。
こころを見透かされたマリアンヌは、肖像の顔の部分を布で拭き消してしまう。
この消された肖像のショット。
島の祭の夜。炎を前に歳老いた女たちが歌う島の歌。
炎を挟んで互いを意識するマリアンヌとエロイーズ。
炎に近づきすぎたエロイーズは、ドレスの裾に炎が移っていることに気づかず、立ち去ろうとするが、そのとき、炎に気づき昏倒してしまう。
昏倒したエロイーズに手を指し伸ばすマリアンヌ。
その手が・・・岩場でのふたりの手につながるジャンプカット(ここがいちばん映画的で驚かされました)。
エロイーズと深い仲になったマリアンヌ。
ミラノに嫁ぐエロイーズは、マリアンヌにとっては、失うことが約束されている存在。
幾度もみるエロイーズの幻影。
その姿は、冥界に残されたオルフェウスの妻エウリュディケーのよう。
マリアンヌが島を去る際に一声かけるエロイーズ(その姿は映らない)。
振り返るマリアンヌ。
繰り返されるオルフェウスの物語・・・
そして、ミラノの劇場の二階桟敷席。
向かい側の桟敷席からエロイーズを見出したマリアンヌ。
マリアンヌはエロイーズを見つめているが、エロイーズは決して振り返らない・・・
その長い長いワンショット。
どこかしらにまだるっこしさも感じる映画なのですが、取り上げたような傑出したシーンがあり、「傑作」といって差し支えない映画でしょう。
また、撮影の美しさも相まって「秀作」「良作」ともいえる映画でしょう。