名もなき生涯のレビュー・感想・評価
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良い父親なのか・・・?
さすがのテレンス・マリック監督です。
こんな映画が2020年に観れるとは思いませんでした。
今後良い戦争映画ってないような気がする。
もう誰も戦争を知らない世代になりそうです。
表題の通りですが、良い父親なのか判断できません。
残された家族はどーすんの?
とも思うし、
屈したら負けだよね・・・とも思う。
自分なら家族を守るほうになるかも・・・自分は弱いのか?
責めないで欲しい。
無名人の偉大な生涯
久しぶりに約3時間の長編映画を見た。退屈するどころかラスト1時間は感動的だった。第2次大戦中、ナチスに抵抗すればどうなるか。そんなことは百も承知しつつ自分の主義を曲げない男。その彼を支える妻との不屈の物語。
アルプスの山岳風景がスクリーンいっぱいに広がり、特に霧がかかったシーンはとても美しい。そんな牧歌的な農村にも戦争の足音が忍び寄る。主人公が徴兵を拒否すると、村人からの蔑視と同調圧力が強まり、国家権力と個人の自由とのせめぎあいが続く。たいてい個人の側が大勢になびくものだが、この作品では蟷螂の斧となっても個人を貫く主人公が力強く描かれている。
歴史とは有名な人だけが語るものではない。無名の人の語られない事実の積み重なりであることをこの作品を通じて知らされる。
戦争の裏側で、家族への愛情VS自分の信念
第2次世界大戦時のオーストリアで、徴兵とナチスヒトラーへの忠誠を拒み続け自分の信念を貫き通した実在の農夫とその家族に巻き起こる出来事を映画化したヒューマンドラマ。
台詞が少なく、説明も少ないが、映像描写でだいたい何となく分かるが、淡々と上手くいかないことが続くので、中弛みがある。
オーストリアの山と谷の自然に囲まれた美しい景色の村で、農夫フランツとその妻と3人の娘と明るく楽しく幸せに暮らしていたが、戦争が全てを破滅させてしまった。
ヒトラーの忠誠を拒んだことで収監された農夫フランツは非国民扱いされ(日本の戦時中のような)、妻も非国民の妻として村人たちからひどい仕打ちを受ける。
上映時間は3時間と長く、終盤までは同じようなシーンが続く。すごい免罪符をぶら下げられても、決して信念を曲げることはない。妻や娘たちへの愛情は自分の信念を貫くことで理解して欲しい、、、家族かギロチンか、率直な意見として、いや~これは理解できないな~。
大自然に囲まれ、風の音や川のせせらぎ、鳥のさえずりの穏やかな日常が静かに進むなかで、戦争の苦しみや哀しさがヒタヒタと聞こえてくる、戦争映画だけどその裏側みたいな作品。
【”手足は縛られても、心は縛られない。” 信念を貫き通した男の姿を美しいオーストリアの山岳風景を背景に描き出す。有機的集合体の全体意思に抗う難しさが、逆に男の姿を崇高に表現した作品でもある。】
ー オーストリアの山岳地域で生きる男の信念:罪のない人を殺める事は出来ない・・。ー
・愛する男の信念を貫く姿を、懸命に心の葛藤を抑え、村人達からの誹謗中傷に耐え、支え続ける妻の姿。
男を心配する母親。陰ながら支える僅かな人々。
・舞台は、第二次世界大戦中のオーストリア山岳地帯の小さな村。人々は斜面の草を刈り、干し草にして家畜を育て野菜を収穫する日々。
が、村の男達に、大戦拡大に伴う招集令状が届き始める・・。
■この作品が観賞中に心に染み入ってくる幾つかのシーン
・男が聖人として描かれている訳ではなく、妻や娘たちを心から愛する普通の男である事。
(あの、目隠しをしながら斜面で鬼ごっこをする幸せそうな家族の姿。)
そして、揺れ動く心を隠すことなくフランツを演じたアウグスト・ディールの沈鬱な横顔。
・夫の行く末を案じ、村人の冷たい視線に傷つきながら、3人の娘をきちんと育てる妻ファニをヴァレリー・パフナーが気丈に演じる姿。そして、彼女をえる姉とフランツの母との強い絆。
・村人たちも、村長を含めた数名以外はどこか後ろめたさを漂わせている。(テレンス・マリックの為政者に対する鋭い視点が垣間見える。)
などが、抑制したトーンの中で、きちんと描かれている所である。
・更に、反逆罪で捕らわれた”罪人”達が高い壁に囲まれた収容所に収容されている場面でも、他の罪人達が不安から壁内を物憂げにうろつく中、フランツは空を見上げている。ファニも近き山の上に広がる空を見つめている。
・フランツに死罪が言い渡された後、人払いをし、フランツにある言葉を呟くドイツ軍判事の姿。(ブルーノ・ガンツ:言わずと知れた名優。彼の名優の死は実に残念である。)
・山の風景も時に穏やかに、時に黒く湧く雲で覆われたり、二人の置かれた状況の反面鏡のように表情を刻々と変えていく。
<最後半、フランツが子供達に宛てた手紙の文面がモノローグで流れた場面では涙が滲んできてしまう。
”ママがこの手紙を読んでくれる頃、パパはもういない・・。でも神様の恵みで、又会えるよ・・。これからは、お祈りする時には僕のことも忘れないで・・。”
そして、エンドクレジットで流れたイギリスの”今やほぼ無名の作家 ジョージ・エリオット”の文章
- 世の中の善は、突出した英雄だけではなく、名も知れぬ平凡な人達が”揺るぎない信念を持って”より良く生きていることに支えられている。 -
というフレーズを観て、とても救われた気持ちになった作品。
舞台は第二次世界大戦中であるが、”現代の状況を鑑みても”、重い命題を私たちに突きつけて来る素晴らしき作品でもある。>
夫婦の気高い精神性
人はきれいごとに弱い。正論に弱いと言ってもいい。だから人を従わせようとする者は、常にきれいごとや正論を口にする。極東の小国に居座る暗愚の宰相がその典型だ。アメリカの言いなりになって武器を買わされることを平和のためと強弁する。そして積極的平和主義などと意味不明のスローガンを口にする。そんな意味不明の言葉でも、普段から自分で物を考える癖がない人は、平和のためと聞いて頷いてしまうかもしれない。最近は新型コロナウイルス対策が評価されているようで、安倍政権の支持率が上がっているらしい。森友疑惑、加計疑惑、桜を見る会疑惑のすべてについて何も説明責任を果たしていないにも関わらず、支持率が上がる理由がわからない。日本は不思議の国だ。
本作品に登場する村人たちも、ご多分に漏れずナチの言い分を正しいと思ってしまう。家族を守る、祖国を守るなどと言われると、それが正しいことのように勘違いするのだ。ドイツのヒトラーがオーストリアの自分たちを守ってくれると思わせるほど、ナチのプロパガンダが巧みだったということもあるだろう。
山間の農村らしく斜面の描写が沢山あり、全体に暗めの映像が続く。明るい太陽の下で見渡せば、おそらく美しい光景なのだと思うが、映画はあえて全体を暗く映し出す。暗い畑に対して、その向こうにそびえる高い山は明るく、神が主人公たちを見下ろし、見守ってくれているようだ。
主人公フランツは平凡な農夫で、妻と3人の娘たちとシンプルに幸せに暮らしている。彼には自分で物を考えることができるという、ある意味で不幸な才能があった。他の人々にはないこの才能のおかげで、どうしてもナチに賛成することができない。加えてフランツには自分の尊厳を守る勇気があった。
村人たちは自分で物を考えるフランツが気に食わない。村長をはじめとする、自分でものを考えない人々には、フランツが理解できない。そもそも他人の人格を大事にするフランツは、自分からは殆ど何も主張しないのだ。しかし抵抗はする。ガンジーがしたのと同じように、自分の精神の自由だけはどこまでも譲らない。同調圧力にも屈しない。そんなフランツの自由な精神もまた、村人たちには気に食わない。そしてフランツとその家族に不利益を齎そうとする。
我々はどうか。フランツを非難し、その妻に冷たくした村人たちと同じレベルではないだろうか。自分で物を考える癖がない人々がナチを支持し、安倍政権を支持する。我々が明るい太陽の下で見ている現実は、本当は本作品と同じく暗い光景なのかもしれない。
妻と3人の娘を大切にしながら淡々と生きるフランツに、ついに召集令状が届けられる。そして物語が進む。
降りかかる多くの災いに耐えて信念を貫く夫と、その夫を信じ、無事を祈る妻の毅然とした生き方には頭が下がる。夫の勇気を尊敬してあらゆることに耐える妻。自分を責めた女性が困窮しているのを見て野菜を分け与える妻。この夫婦の気高い精神性にとても感動した。人間の尊厳は勇気に支えられているのだと改めて思う。
2020年ベストムービー!⭐️✨
ワンカット、ワンカットがまるで絵画のようで美しく、場面が切り替わるごとに、その画の美しさに気が入ってしまい、作品の物語に没頭出来ない…そんな贅沢な作品でした(笑)
*この作品のテーマにあるように、私たちの歴史や人生は、名も無き人たちのかけがえのない営みや努力・犠牲があるからこそ、成り立っているのだと、考えさせられる尊い作品でした。
そして、私たちがまたそうあるべきなんでしょう…。
正義を貫くことの意味を問うマリックの到達点
これは凄い作品だった。『ツリー・オブ・ライフ』以降、ハイブローな作品を撮り続けてきたテレンス・マリックが魂をダイレクトに揺さぶる大傑作を作った。
オーストリアの山と谷に囲まれた美しい村、そこに在る自然を信じられない程の奥行きをもってとらえた映像に圧倒される。まるで楽園だ。そこで暮らす主人公フランツとその家族たちの幸せの情景が強い説得力を持った。
幸せの絶頂にあった彼らが戦争の渦に巻き込まれていく1939年。オーストリアの山に住む農夫たちにも容赦はなかった。1943年、ヒトラーへの忠誠を拒んだフランツは収監されベルリンへ。
ひとは正義のために死ねるものなのか?家族をも犠牲にできるのか?
状況は何も変えられない。犬死である。
この作品は観る我々に嫌というほど考えさせる。自分ならどうしたのかと。
これはマリックの最高傑作といえる強靭な意志を持った作品。今年の外国映画のベストの一本だろう。
静かな「沈黙」
せりふ少なく説明も少ないので、神は信仰を持つものを助けてくれるわけではない、というテーマだとは言い切れないのだが、それが強く響いてきた。
スコセッシの「沈黙」は激しい映画だったがこれは真逆。(拷問シーンなどもあるが)
何度も「たかが言葉だ」と言われ説得されるが主人公は最後まで頷かない。イデオロギーなのか信仰なのか。
美しい山の風景、そこに暮らす素朴な農夫たちの生活が丁寧に描かれる。衣装も素晴らしい。眼福
コレどう捉えますか?
サインをすりゃ囚人から解放されるのに!とか
もっと素直になれば幸せに生活送れるのに!とか
「弱者を殺すのは本当の強さなんかじゃない」←(あってるか?)と言わずに、兵役に行けよ〜とか
何の意味があるのか?
何か得する事あるかコレ?
他にもたくさん…
さて観る人はどう捉えるのだろう?
約3時間!
そして妻の葛藤
計り知れなさ。
けど最後まで強く逞しい
とにかく暗くて重くて胸が詰まる…
オーストリアの美しい風景を観れるだけでも溜息モノです
色々な意味で悔しさが残る作品
本作品、去年より大変に楽しみにしていました。
ここ数年、第二次世界大戦のドイツモノが毎年何だかの形で上映されるのを楽しみにしています。
本作品、戦争のシーンがない戦争映画であり、邦題のタイトル通り、名もなきひとりの何でもない人の人生に関しての映画・・・・
大変に素晴らしく、秀作な作品ですが少し長いかな・・・・
全編を通して、静かに話が進んで行きます。
最後は、やはり、悔しいな・・・・・信念も大切ですが、家族も大切・・・・・主人公の生き様に感銘するのと同時に、残された家族が可愛そうにも感じる・・・
やはり、戦争は何も生まれません・・・・・・
本作品、テレンス・マリック監督作品ですが、明らかに彼の最高傑作になるんじゃないですか・・・・
しかし、実話なんで、お話の全編が真実なんだろうが・・・・日本でも世界で、何の罪のない人が殺された訳ですが、本当に彼らの死に意味が有ったのか・・・・また、彼達は生まれ変わる事が出来たのか・・・・大変に悲しい作品の1本です。
余談ですが、舞台となるオーストリアの山の上の村なんですが、大変に綺麗な場所で、雲が低く、一度行ってみたくなる。
テレンス・マリック新境地
テレンスマリックだからこそ。映像は美しく、役者の演技は生々しく。そしてもちろん眠くなる。
撮影は1テイク20分~40分ほどの長回しだったという。それをかなり短いカットで細かくつないでいる。通常の映画のようにドラマの起承転結でシーンが作られるのでなく、登場人物たちの動きや会話は、途中から始まり、途中で終わる。断片的なイメージが映画に不思議なリズムと印象を与える。
見ているうちに、こうしたイメージの積み重ねに同化し、スクリーンに映っていない、編集で削られた山麓での暮らしを想像し、本当に主人公たちが実在して生きているような気持ちになってくる。実話がベースになっているからこそだろう。テレンスマリックは好きだけど、ツリーオブライフから前作までの、一連の「映像詩による物語の追求」から新たに一歩進んだ印象。次回作はいよいよキリストを真っ向から描くとか。かなり見てみたい。
あまりに美しくて
ほぼずっと泣いてました。風景が、光が、会話の一つ一つが、仕草が。
信念を持ったとして、悪魔がささやいたとき、どちらを選ぶのが正解なんだろうか。ずるくても背いても生きていて欲しいけど。
私は殉教者にはなれないけど、せめて小麦を少し足してあげたり、りんごを拾ってあげられる人でいたいなと思った。
明るく陽気な友人の最後の悲痛な表情が辛かった。善い人が幸せに生きられる世界でありますように。
正しさを教えて
第二次世界大戦時、ナチスに忠誠を誓えない農夫が、自分の信念のもと、徴兵を拒み続けたことから、自身と家族に巻き起こる出来事を描いた作品。
上映時間は3時間越え。終盤に入るまでは同じようなシーンが続くので、体感時間が3時間とも思えない長さだったけど、不思議と話にどっぷり入り込み退屈さを感じない。
素直な感想を言えば、罪のない人を殺せないという信念のもと、ナチスに決して忠誠を誓わなかった主人公は立派だなと思いつつ、村では厳しい虐めを受ける妻や、父親を想い待ち続ける子供たちのことを考えたら…少し許せない気持ちになった自分もいました。
許されることではないけど、他の村の女性たちは自分の夫が戦地に行かされているわけだし、私の立場も考えろと言う村長さんやキャリアの心配をする弁護士さん、彼らの気持ちもわかるんですよね。それでも夫を肯定し続ける奥さんが切ない。
大自然に囲まれた舞台の中、穏やかなはずの風の音や川のせせらぎ、鳥のさえずりも、全て哀しく聞こえる、そんな作品だった。
決して批判しているわけではなくて、寧ろこれほど真剣に映画に向き合えたのは初めてかなと感じた。
ちなみに本作のベストキャラクターは、徴兵時に出逢って、監獄で再び出会った男ですね。
彼が求めていたものの話を聞いて・・・主人公の素朴な日常がとても幸せなものだったんだなと。
カメラワーク
テレン・スマリック独特のカメラアングル。全編自然光を活かした描写。詩的な会話。どれをとっても彼らしい作品であり、かつ、珍しく分かり易い話となってます。
問いかけてるのは正しく生きるとはどういうことなのか。このテーマはいつの時代でも問われてる問題だと思います。カンヌ国際映画祭でエキュメニカル審査員受賞作品。
叙情的映像の連なり
見事なロケーションと、絵画のような映像が、叙情的に連なっていたという印象。
質の高い映像と音楽の絡み合いは素晴らしいとは思ったけれど、どうしても退屈感が拭い去れず…しかも長い。
静かに抵抗し続けた者の思いを描こうとしている志は理解できるけれど、抵抗の根底にあるものがあまりに弱すぎる─そう思ってしまうのは信仰というものを持たない自分が原因なのか…
倫理的な反戦なら理解できる。けれど、この作品はそれとは違うと思わざるを得ない。
英語とドイツ語が混在しているのは、雰囲気とか分かりやすさを重視しているというふうに捉えたけれど、見方を変えると、連合国側の逆プロパガンダとも取られかねないような…まぁ飛躍しすぎですけど。
この映画を見ようとしたきっかけは、予告でグレツキの悲歌のシンフォニーに乗せて流れる映像が素晴らしかったから。実際に作品を見ても、その音楽と映像の親和性は素晴らしかったけれど、いかんせん、その部分が短い─というより、短いカットで繋いだところでやっぱ全体的に長すぎます。
相当疲弊させられた映画でした。
神の沈黙、人の信仰
第二次世界大戦中、ナチスドイツ併合下のオーストリア。ヒトラーの思想に賛同できず、軍召集を拒み、罪に問われた農夫の姿を追う。
戦争もの、伝記ものというよりは、非常に内面的、哲学的な側面を感じた。
中盤までは、農夫と家族の山村での日常生活と、それが戦争によってじわじわと侵食されていく様、農夫が勾留されてからは、農夫と妻の手紙のやり取りという形式で、刑務所の様子と、村人に差別や嫌がらせを受けて孤立しながら必死に生活を送る家族の姿が、代わる代わる写されていく。
戦闘描写も殆どなく、物資不足などの生活への影響は勿論あるのだろうが、目立った形では描かれない。
ただ、情勢に抗えず、人々の意識や思想が、民族排他、国家奉仕、集団統制、自己保身へと、じわじわと押し込まれていく、心の不自由に焦点を当てている。
神を信じる者として、罪のない弱者を食いものにする戦争に加担する事はできないと、自らの信条を貫き通す農夫。何も変わらない無駄骨だと嘲られ、口先だけでもヒトラーに忠誠を誓えば放免されると諭され、神は救ってくれないと絶望を囁かれ、温かい思い出と暴力の現実を行きつ戻りつ煩悶しながら、それらを頑固に拒んで信条に殉ずる姿には、明らかにキリストの受難が重ねられている。正しい者を神は救って下さると信じ、けれど叶わず、苦しみ嘆いた末に、ただ実直に土を耕し果樹を育て続ける家族の姿もまた同じく、生きる事と信仰の本質を描いているのだろう。
山村の自然の中を、刑務所の中庭を、狭い個室を、ぐるぐると歩き廻り、頭を抱え、呻く農夫の向こうには、もっと根本的な命題、人であるという事は、尊厳とは、善性とは、良心とは…と自問しながら、内へ内へと潜っていく、作り手自身の姿が透けて見える気もする。
時に容易に人を踏みにじり、時に身を擲って情を与え、時に死を以てしても意志を貫く、人間とはいかなる存在であるのか。
一介の農夫のちっぽけな抵抗は世界を変える事はない。たぶん変えようとした訳でもない。ただ彼が彼である事の矜持を守り通して生き、死んだだけだ。その自我の強さが、人が人たり得る所以のひとつであるようにも思う。
風や水や木々の匂いまでも感じさせる大自然、建物内部の光と影など、映像がとても美しいが、主人公主観、人物に近接するアングルなど、多様な視点が入り交じる。
物語として筋立てて語るというよりは、詩か散文のように言葉や台詞が投げ掛けられる。
メインの台詞は英語で字幕も入るが、敢えてだろうが、ドイツ語のまま、字幕も表示されずに、雰囲気や語調や展開で内容を推し量るしかない場面もある。
癖のある表現、淡々とした内容、3時間という長尺。好みがくっきり分れるのは致し方ない所だろう。
長かったけどとても良かった!
オーストリアは1938年、アドルフ・ヒトラーを率いるナチス軍に併合された。その段階でオーストリアは消滅した。
そんな時代に妻フランチスカと3人の娘と暮らしていたフランツは、ドイツ兵として戦争へと狩り出されるが、ヒトラーへの忠誠を拒んで収監される。獄中のフランツを妻のフランチスカは手紙で励ますが、彼女もまた裏切り者の妻として村人たちから村八分的な仕打ちを受ける。前半は山と谷に囲まれた素晴らしく美しい村での家族の幸せな日々を描きます。もうこの景色だけでも見られて良かったと思うくらい美しい景色です。後半は獄中のフランツと村に残ったブランチスカが戦時中にありがちな理不尽な目に遭う展開が続きます。フランツには弁護士や裁判長から救済の手が差し伸べられますが、命と引き換えてもヒトラーへの忠誠を誓う事は出来ない。言葉と心の中は違っていても良いんだと言われても、これにサインすれば自由の身だと言われても自分の信念を曲げられないフランツ。個人的にはこの人、頑固だなあとか、家族のためにサインしろよーとか思って見てました。結局、ナチス・ドイツ軍は敗戦し、オーストリアも敗戦国となった。オーストリアは戦後、ナチス軍の戦争犯罪の最初の犠牲国と主張。しかし世界ユダヤ協会から「オーストリアはナチス軍の戦争犯罪の共犯」と反論されたんですよね。
挿入シーンが多すぎて
長い。長すぎ。
自らの信仰から生まれる正義にそぐわないヒトラーに、忠誠を誓えないがゆえに、従軍命令に対し良心的兵役拒否の立場を貫いた農夫を描いているのですが。
オーストリアの山々と、妻や子の思い出がことあるごとに挿入され。
その挿入シーンが、生き残るか信仰を貫くかの葛藤なのか、むしろ愛ゆえに心を強くするためのものなのか……
扱いに困ったりして。
あまりに多すぎて、時系列の混乱まで招いていたような。
173分を130分くらいにしたら、良い作品だったと思いましたよ。
…is half owing to the number who lived faithfully a hidden life, and rest in unvisited tombs.…
何度も挿入される雄大なオーストリアアルプスとその麓の風景が素晴らしい。そして、しつこいくらい繰り返し撮される毎年同じ農作業の光景。饒舌な映画ではない。主人公がなぜああも頑なに自分の意思を通すのか、主人公の口から説明らしきものが発せられるのは一回だけ。あとは静かに聳え佇む山が、滔々と流れる河が、何処までも広がる草原が代弁しているようだ。嘘をつかない自然を相手にする農夫だから、ヒトラーやナチの嘘を直感的にわかり、そこに繋がることを頑なに拒んだのであろうか。よく泣くし感情を爆発させることもあるが、村人の白い目や非難の言葉にも耐えて、黙々と農作業を続ける妻の強さと夫への変わらぬ愛情。A hidden life ではあったが名もなき生涯ではなかった(本人には歴史に名が残ろうが残ら無かろうがどうでも良かったでしょうけど)一農夫とその妻の、歴史に名を残すことになった数年間の日々を描いたepic movie。
全50件中、21~40件目を表示