「【静かな映像、怒涛の人生】」あのこは貴族 abuさんの映画レビュー(感想・評価)
【静かな映像、怒涛の人生】
二人の女性の視点で、ゆっくり丁寧な映像が流れる。山も谷もなく、穏やかな気持ちで見られる——しかし、背後で進行している人生は波瀾万丈だ。観客は「いま、どれくらい時間が飛んだのか?」「どんな転換が起きたのか?」を確かめながら追っていく必要がある。
それでも、華子にしても美紀にしても、地に足の着いた正直な生き方が画面に宿るから、不快感は一切ない。むしろイラつかせるのは周囲の人々で、彼らはたまにしか映らないのに強烈に腹立たしい。気づけば、こちらは友人を庇うような気持ちで二人を見守っている——その感情の移入こそが、この映画の不思議さであり肝だ。
純粋無垢な金持ちであれ、地方出身の働きづめであれ、人の価値観は案外変わらない。世間体を気にし、人の目を気にし、ときに自分に嘘をつきながら生きている。だからこそ、ラストで見せる彼女のまっすぐな視線は、変わらず自分の足で歩み続けている証として胸に残る。
珍しい語り口ながら、見終わると実に気持ちのよい一本だった。
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