「東京は時折、自転車の方が車より速い」あのこは貴族 杉本穂高さんの映画レビュー(感想・評価)
東京は時折、自転車の方が車より速い
この映画は東京に生きる2人の女性を描く作品だ。東京という街は面白いところだと思う。ロサンゼルスほど貧富の差や人種で分断されておらず、かといって金持ちと貧困層の住む世界ははっきりと異なる。それでも東京は時折、違う世界に住む住人がまじりあう時がある。本作はそんな間隙のような瞬間を描いた作品と言えるかもしれない。
もう一つ、東京が面白いなと思うのは、混雑しているが故に車よりも自転車で移動した方が早い時があるということだ。主人公の華子はいつもタクシーで移動する。誰かが行き先を告げてくれたタクシーの後部座席に乗っているだけのような人生を彼女は送っている。彼女の人生の行き先は誰かに決められてしまっていることの象徴だ。もう一人の主人公、美紀は、自分の足と手で自転車を漕いで移動する。美紀は、自らの意思で人生の向かう先を決めている。そんな彼女の乗った自転車が、華子の乗ったタクシーを追い抜いていく。その時、初めて華子は自らの意思でタクシーの後部座席を降りる。
自転車がタクシーを追い越すのは東京ではしばしば見かける「東京あるあるネタ」にすぎないが、そんなあるあるネタを最も重要なシーンに活かされている。「東京の映画」として大変秀逸だ。
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