「深淵に届くことなき視点」あのこは貴族 室木雄太さんの映画レビュー(感想・評価)
深淵に届くことなき視点
汚れや毒素を排除して描いては、感受性に作用する刺激は薄いのだ。貴族主義が主軸であっても、映画で「東京」を題材の一つに据えた時、描き方一つで“この街の何を見てきているのか”が露となり、印象も決定付けてしまうだろう。その意味では、危険なテーマである。住み分けされているが故に交わらない階級の人種、確かにそのことは存在する都市、TOKYO。何方にせよ、街の景観や社会構造は片一方の視点から構築され、路を隔てそびえ立つ。生きる場所が異なる者がこの街で交差する瞬間、其れ等の奇妙な合流が心に残り消えず、人生の変化に作用する。感情の起伏に影響するその刺激を、如何様にでも掘り下げられた筈だ。上層階級の視野がこの程度故に描き方としては満点なのだろうが、このキャスティングにしては平面一辺倒で退屈な小説の様だった。演者のみせる表情に惹きつけられる持味が映し出され、それなりに観入る事は出来るものの、原作に忠実ならば皮肉な話である。
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