「現代日本の文化・社会風俗を描いた映画として大変良くできている。繊細な女性映画でありながら現代日本の抱える問題の幾つかを上手く掬い上げている。早速原作読まなきゃ!」あのこは貴族 もーさんさんの映画レビュー(感想・評価)
現代日本の文化・社会風俗を描いた映画として大変良くできている。繊細な女性映画でありながら現代日本の抱える問題の幾つかを上手く掬い上げている。早速原作読まなきゃ!
①最初(第一章)に華子のエピソードを持ってきたのが宜しい。現代版『晩春』や『細雪』という面白さで映画に引き込まれる。ただ華子には『細雪』の雪子の様な(隠れた)したたかさは無く、あくまで世間知らずのお嬢様。現代日本にまだお嬢様っているんだ、というのも面白いが、華子の結婚相手は更に格(階層)が上というのがまた面白い。②バブルの頃は「一億総中流」とか言われたり、現代は「格差社会」とか言われているけれども、実は日本は今に至るまでずっと階層社会・格差社会なんですよね。大多数の日本人は日本社会は自由で平等な社会だと思い込まされているけど。③私は美紀のように地方都市(しかも農村部!)で生まれ育ったからよくわかるけれど、たった50年前でも『家の格が違う』とか、東京から連れ帰ってきたお嫁さんを『どこの馬の骨かわからん娘』とか、結婚相手の素性を調べるとか当たり前でしたもんね。そういうのが嫌な人が都会に出て、だから都会は自由で平等なんだと子供の頃は思っていたけど、都会も都会、大都会の東京は実は階層社会であり階層で住み分けていて交わらないようになっているとは実に皮肉。④「氏より育ち」と言うけれど、育ちってやはり重要。身に付いてしまっているから違う生き方をするのはほとんど無理でしょう。『そう言う育て方をされたから』という台詞が頻繁に出てくる。幸一郎なんて最初から敷かれたレールに乗って生きていかざるを得ないのを諦感を持って受け入れているというか、最初から諦めて受け入れているものね。だから、最期のシーンでお嬢様の枠を破って歩きだした華子を羨ましく思ったんじゃないかな。⑤女性作家の原作で女性監督のせいなのかどうかはわからないが、華子と美紀を取り巻く若い女性陣の描写がリアルで楽しい。特に華子側の逸子を演じる石川静何(石橋凌と原田美枝子の娘なんだ。ヒェ~)と、美紀の側の理英役の山下リオが特に好演。⑥門脇麦は生粋のお嬢様である華子を完璧に造形化して現代若手屈指の演技派の面目躍如。水原希子は特に役を作っていない様な自然さが良い。お一人様の老後のことを理英と冗談半分・真面目半分で盛り上がった後に一緒に起業を決意するシーンが秀逸。⑦日本という国を回していくのに階層社会が必要なのは仕方がない。また東京という街の半分は地方から出てきた人間の願望や夢を吸いとって成立している虚構の街というのも斬新な視点。それを糾弾するでもなく問題視するでもなくそこで生きていかなくてはならない若い女性たちの姿を真摯に描いているところが爽やか。演出も淀みがなく秀逸である。⑦あと蛇足ながら『私をくいとめて』や本作でも東京を象徴するのがスカイツリーではなく相変わらず東京タワーというのも面白い。