劇場公開日 2019年11月15日

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「焦点がぼやけている」わたしは光をにぎっている andhyphenさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5焦点がぼやけている

2020年1月16日
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鑑賞方法:映画館

画も良いし役者も良いのに、なぜこんなにも...なんというか、「残らない」感じがするのだろうか。
田舎を出て来て東京にやってきた若い女性、という圧倒的なモチーフを使っているのに、なんだろう、それを活かしきれていないという感じがする。
松本穂香の、あの曖昧な、言葉を発さない、引っ込み思案な演技は良い。良いのだが、彼女のバックグラウンドがまるで見えない。田舎で育った、両親を喪った、だけではあの性格形成が分からない。まして実家が民宿で、あれほどの祖母が居て。全く分からない。彼女が。彼女が恐れるものが。ひと...?というのでもなさそうで。
つまり主体たる彼女が曖昧過ぎるので、後半は特に、ひたすらに失われゆくものへの郷愁映画になっている。
郷愁。
つまるところこの映画が撮りたかったのは失われゆく時代への郷愁なのか、ひとりの若い女性の姿なのか。成長譚としては弱く、群像劇にしては描き込みが足りず、結果我々は消えゆくものへの惜別をひたすら見せられる。それならいっそドキュメンタリーで撮って欲しかった。渡辺大知にその役させるのではなくて。
つまり、どちらかにフォーカスを絞ればもっと...なんというか「刺さる」映画になったと思うのだ。どことなく造形が中途半端な、作りかけのものを観ている違和感が拭えなかった。
カメラワークもカット割りもすごく良くて、映画としては美しい。でも映画は美しいとか、ノスタルジックだけではなくて、芯がないとなあという気持ちになる。
物語のあるなしではなくて、フォーカスをどこに持っていくか、は重要と感じた。
松本穂香はとてもよくて、あの苛々させる感じを出せているのは素晴らしい。現に出てくる女性陣、ほぼ皆苛々している。しかしさすがに首の傾げ方がわざとらし過ぎる気がした。渡辺大知と徳永えりは出番の割に薄いし、忍足修吾はなぜあそこで使ったんだろうという気がした。もったいない。
光石研は上手いけど、ああいう役じゃない光石研を観たいと思ってしまった。

andhyphen