劇場公開日 2019年6月29日

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「対峙しないカメラ、対峙するペトラ」ペトラは静かに対峙する しずるさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5対峙しないカメラ、対峙するペトラ

2019年7月1日
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悲しい

知的

話の内容は、かなり濃い目ではあるが王道のサスペンス。
一つの家族とその周辺人物が、嘘や秘密により運命を絡ませ、悲劇的な結末を迎えていく、ごく狭い範囲の愛憎劇。
神話や悲劇の典型とも言える人間の業罪をモチーフに含む所など、古典の雰囲気もある。

物語は7つの章から成り、しかし順番に語られる物ではない。2、3章が先に語られ、その後1章に遡ったりする。
難しい内容ではないが、キャラクターの顔や名前、役割を把握するまでの間は、少し混乱した。

カメラワークやサウンドなどから受ける感覚が、一種独特。
展開の殆どが、二人の人物の会話からなる。何故かカメラは、会話する二人を同時に捉える事を殆どせず、周囲の風景から一人の人物へとゆっくり視点を合わせていき、その人ををフレームアウトして会話の相手へ、そしてまた最初の人物へ…と、留まる事なく、ゆるゆると動き続けるのだ。
会話や出来事の中心人物が写らず、カメラが風景や部屋を嘗めるように移動し、会話だけが聞こえているという時間も多い。
また、起こった出来事の結果を写さず場面が転換し、どうなったのかという不安を引きずったまま、後になって経緯が明かされる事もある。
BGMは殆どなく、ただ効果音のように、不安や哀しみを示唆するサウンドが時折流れ、それも場面転換や会話の開始でプツリと絶ち切られる。

会話と出来事だけが、ただ淡々と語られていく。
提示されるのは各人の語り言葉だけなので、その真偽や本当の心情までは、観客には計り知れない。行為の理由も、観客が自ら推し量るしかない。
カメラは特定の人物や出来事に注視する事をしない。
意図的に感情移入を阻まれ、傍観者としてただ運命の成り行きを見守るしかないような、奇妙な疎外感と不安を感じた。

古典悲劇では度々、親の因果が子に報い、過去の出来事が現在を形作る因果応報的公式に縛られ、登場人物達は大方その定めから逃れられないが、ラストのペトラの行為は、その悲劇の糸から抜け出し、大切な物を守ろうという強い意志の表れではないかと感じた。
人間の罪、業、悪意、運命。ペトラが対峙したものとは、何だったのだろうか。

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しずる