「高評価のワケアリ」9人の翻訳家 囚われたベストセラー うそつきカモメさんの映画レビュー(感想・評価)
高評価のワケアリ
似たような映画はたくさん見てきた。
なのになぜこの映画だけが特別に評価され、愛されるのか考えてみた。
構造的には、この映画は明らかにミステリー映画の分類に入るであろう。つまり、殺人などの犯罪行為ののちに、探偵が現れ、犯人が見つかるというものだ。
だが、その定義に当てはまらない要素がいくつかある。
まずは、犯罪行為そのものがないこと。
厳密には、殺人行為があるし、機密事項の漏洩がある。特定の立場の人にとっては、莫大な損失を被る犯罪行為であるし、撮り方によっては、犯罪を軸に話を進めていくことが出来るはずだ。
しかし、そうはなっていない。
あたかも、何か壮大なプロジェクトが進行しているかのような日常を描き、そのために集められたチームが立ち上がり、一見して順調に進んでいるかのように映る。
ところが、すぐに問題が発生し、その「犯人探し」が始まる。事態を収拾するための身代金が要求され、強硬な態度で突っぱねる。すると事態はさらなる悪化をたどる。
つまり、表向きはそのプロジェクトの進行と、謎の妨害者の、地味な攻防戦を描いたストーリーになっている。
一見してメンバーの中の誰が裏切り者なのかを突き止めていくミステリーなのだと思った。しかし、それもあっさりと覆される。
きっとこの人が探偵役なのだろうと思ったプロジェクトのリーダーが実は犯罪者だった。なぜか囚われの身であり、今まで何らかの悪事の主犯格だと思っていた若者がそれを追及する側だったという主客転倒が起きる。
鮮やかに。
これが最初のツイストだとするなら、この映画では3回も4回もツイストが仕掛けられている。きっとこの鮮やかなツイストこそが、この映画の高評価の秘密なのではないだろうか。
普通はそんなツイストを仕掛ければ仕掛けるほど、映画としては破綻していく。
その時は「あっ!」と、驚かされても、あとになって「いや、やっぱりなんかおかしくないか?」と思い直すことが多いのだ。
この映画にもちょっと苦しい言い訳がいくつか出てくる。
「いや、そのカードを切るんだったら、あそこの展開まるまる要らなかったじゃん」というような言い訳だ。
ネタバレなので書けないが、地味なスト―リーに少しでも派手で、観客をハラハラさせる冒険の要素が欲しかったのだろう。その違和感がぬぐえないまま、映画が終わってしまった。
よく出来た映画だとは思う。でも、世間的な高評価ほど、いい映画とは思えなかった。