「楽しい終末世界へ。」9人の翻訳家 囚われたベストセラー KinAさんの映画レビュー(感想・評価)
楽しい終末世界へ。
質の良い推理小説を読んでいる時の感覚、あの快感を味わえる映画作品だった。
小説を書く者、翻訳する者、小説を売る者、登場人物の全員が本に関わり、物語の全てが本に関わっている。
読書が好きで好きでたまらなかったあの頃を思い出しながら観ていた。
ミステリーっていいな、と再確認。
「誰が、なぜ、どうやったのか」「一体何のために、何をしたのか」を少しずつ推し図りながら読み解いて鑑賞する楽しさと刺激。
私の考えなど簡単に外れ、物語が遥かに越えてくれる喜び。予想外の展開、ひっくり返る思考。
奥深い真実が示された時のどうしようもない切なさ。
美しく構成と鋭いストーリーの前にひれ伏すしかない。
文学への愛と執着、人間への愛と執着。
曲者キャラが揃う中、「原稿の流出」という事件はなんだか地味に感じてしまい、最初はローテンションだった。
しかし、「種明かし」が幾つも連なるごとに驚愕のテンションが重なり、後半はもう高まる一方。
行ったり来たりする舞台と時間の演出もお見事。
洒落にならない悲劇も起きていくけれど、振り返るとロマンに溢れた物語でもある。
謎に包まれた著者に会いたいと、最新作を一早く読みたいと、を素直に吐露した彼女。
アニシノバの狂信的で純粋なファン心理は非常に人間らしくて良い。
しかし「デダリュス」の表紙がかなりダサいのがずっと気になった。
もう少し品があってスタイリッシュなデザインにすればいいのに…と、本が映るたびに思ってしまう。
大学で研究されるほどのベストセラーなら尚更。
存在しない小説だとは知りつつ、デダリュスを読んでみたい気持ちは抑えられない。暗証番号は覚えた。
コメントする