「バトル漫画としての描写はなかなかに細やかで良い。しかし……」僕のヒーローアカデミア THE MOVIE ヒーローズ:ライジング S Hさんの映画レビュー(感想・評価)
バトル漫画としての描写はなかなかに細やかで良い。しかし……
ヒーローアカデミアの原作知識がある事を前提として作られているため、無駄な前説が無く、序盤から激しく動き回る1Aの生徒たちの姿に思わず笑顔になります。
前作の様に無意味なキャラ紹介と会話劇が繰り広げられた挙句バトルシーンがお粗末で話にならない挙句、一人一人へのフォーカスも不足し過ぎで何もかもが至らない……という悲劇は回避されています。バトルシーン等の描写は格段に良くなり、何より主役二人以外の戦闘での活躍がきちんと描かれているのは素晴らしいの一言です。
シナリオ面に関しても、1時間の中に収めた物としては上々。
ヴィランが悪さをするのに理由は必要なく、ただそれを止める為に戦うというのは実にシンプルで判り易い。一応ヴィランの目的も申し訳程度に判明しますが、そこは作品の肝ではないので正直どうでもいいのです。つまり、今作に関しては1話完結のバトルものなのでシナリオなんてどうでもいい訳です。にも関わらず、ちゃんと原作の時間軸と登場人物た達を絡め、何かしら悪事の計画の一端に触れたんだなと理解させる事に成功している点で、実に良く押さえているとすら思います。
しかし問題は最終番の〆方。
原作知識があればあるほど、あの描写には不満が残ってしまう。
爆轟が緑谷と手を繋ぐのが問題等と見当違いの事を言っている人もいますが、ヒーローとして人命救助の為に他にどうしても手が無く、一刻の猶予も無い状況で爆轟が緑谷と手を組むことを拒むという解釈の方が、原作をちゃんと読み込めと言いたくなるもの。
問題はそこではなく(まぁ結果的に同じシーンの事になりますが)力を譲渡するという行動その物。
そもそも緑谷はこの時点でまだOFAを使い熟せていません。まだまだ先があるというこの段階で、最終手段である爆轟への力の譲渡という選択と展開が“他に幾らでも展開が思い付く”程の悪手だという事。しかも途中急に100%の力を使っており、何故か体が付いて行っているという設定的矛盾と、OFAの100%とは即ちAFOに打ち勝った力であり、それが通用しない劣化AFOである今作の敵とは?という特大の矛盾も孕んでいます。
緑谷がOFAの力を十全に使い熟し、使い果たした上でAFOとの決着を付ける最後の最後、爆轟への譲渡を行うというのならまぁ判ります。しかしそうではない。
その上、それだけ劇的な選択をしたにも関わらず最後は突然の「奇跡」という一番“冷める”方法で一件落着させてしまいます。奇跡を起こすなら奇跡が起こる前触れが必要で、奇跡が起こってもおかしくない下地が必要になりますが今回はそれすらない。本当に唐突に奇跡が起きる。
これは流石に子供と言えども納得し難いでしょう。
終わり良ければ総て良しと言いますが、今作はその真逆。
途中までは非常に良かったにもかかわらず、終わりが悪かったせいで評判を落としてしまった悲しい作品だと言えるでしょう。