「井の中の蛙大海を知らず されど空の青さを知る」空の青さを知る人よ 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
井の中の蛙大海を知らず されど空の青さを知る
『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』『心が叫びたがってるんだ。』のスタッフが再結集した新作オリジナル・アニメーション。
まず、前2作は中規模公開だったのでレンタルだったが、今回は全国規模公開となり、我が地元の映画館でも上映され劇場で観れた事がとにかく嬉しい!
そして作品の方は、前2作が非常に良かったので今回も期待していたが、期待通りやはり今回も良かった!
今年は多くの話題の邦アニメーションが公開されたものの、ほとんど『天気の子』の一人勝ち状態だが、個人的には本作が一番好きだ。
前2作同様、今回も埼玉県秩父が舞台。
舞台となる地方都市ののどかでハイクオリティーの美しい画は言うまでもなく。
これ実写? 実景を書き起こしたもの?…と思わずにいられなかったり、
実際に住んでる人ならば、ここ知ってる! あそこに似てる!…と声を上げたくなるであろう風景があったりで、
秩父の魅力がたっぷりと描かれている。
…しかし、ヒロインにとってはそうではない。
ヒロイン曰く、“盆地に囲まれた牢獄”。
高校生のあおい。
幼い頃に両親を事故で亡くし、姉と二人暮らし。
こんな町を出て、東京に上京し、ミュージシャンになりたいという夢を抱いている。
性格はドライながら、ちょっと抜けている所もあり。
悩み多き思春期真っ只中で、色々とまだまだ未熟…。
そんな妹と対称的な、姉のあかね。
とにかくこのあかねが、何て素敵なお姉さん…。
市役所に勤めながら、家事も妹の面倒もこなす。
性格は優しく、穏やか。終盤思わぬ事態に巻き込まれるが、その時も決してパニックになったり慌てたりせず。マイペースと言うか、肝が据わっていると言うか。
あおいにとっては親代わりで、姉と言うより母親のような存在。
姉妹仲は良好。大好きなあか姉だが、複雑な感情も抱いている。
あかねには高校時代、恋人が居た。
卒業したら彼と東京に行く約束をしていたあかねだが、両親が死んで姉妹二人きりになり、彼との上京を断念。
と言うより、自分の夢や将来も諦め、この町に留まり、妹の面倒を見る事だけにずっと費やしてきた。
あおいはそんな姉に負い目を感じている。
どうして、自分の幸せや人生より、私の事を…?
だから、ある時、つい本心でもない事を言ってしまう。
その時も姉は怒ったりせず、いつもの優しい笑顔。
ますます姉への負い目が大きくなる。
私の事なんかより、自分の幸せや人生を生きてよ、と。
私事ながら、すでに両親を亡くし、弟と二人暮らし。
さすがにこんな素敵な関係ってほどではないが、兄弟二人の立場は少なからず分かるものもある。
(照れ臭いので、この事に関してはこれ以上は…)
姉妹愛物語として、『アナ雪』にも劣らない!
そんなある日、あおいとあかねは各々、思わぬ人物と再会する。
町の音楽祭のゲストに、大物演歌歌手が来訪。そのバックミュージシャンの中に、あかねのかつての恋人・慎之介の姿が…。
そして、あおいがベースの練習場として使ってる古ぼけたお堂で出会ったのは、高校時代の慎之介“しんの”…!
あらすじだけ読むと、「ん? どういう事?」。
しかし実際見ると、難なく内容が身に入っていく。岡田脚本の語り口の巧さ。
等身大の青春ストーリーに、ファンタスティックな要素をプラスは、前2作と同じ。
これがまた作品を魅力的にしている。
慎之介としんの。同一人物なのに、まるで別人のよう。
まず、しんの。一緒に居ると、パァ~ッと明るく楽しくなっちゃうような性格。
軽くて、突然過去からやって来た現状に対しても、「まあ、来ちまったもんはしょうがねぇや」的な。
今のあおいと同じ卒業したら上京してミュージシャンになると大言壮語。
あおいのミュージシャン志望の影響も彼。幼い頃可愛がってくれた、“目玉スター”同士。
一方の慎之介は、一応プロのミュージシャンにはなったが、昔夢見ていたようなミュージシャンではない。
発表曲も一曲のみ。
今はバックミュージシャンとして食い繋ぐ。
目に余るやさぐれ感で、典型的な夢破れたダメなオレ。
13年も経てばそりゃあ変わるかもしれないが、にしても…。
あおいはこの機に、もう一度二人を復縁させようとする。
またひょんな事から、慎之介らのバックミュージシャンにベースとして参加する事に。
なかなかの腕前のあおいだが、慎之介はキツイダメ出し。
あんなに優しかったのに…。
そんなあおいを、しんのは応援。
慎之介はヤな奴だけど、しんのはやっぱりイイ奴。
あかねと慎之介の再会時の印象も最悪。
でもある時二人っきりになったら、自然とあの頃のように…。
不思議な四角関係。
ユーモア、温かさ、シリアス、切なさ…。
それらが巧みにミックス。
またそれらが、メイン4人の性格をも表しているかのよう。
サブキャラでは、あおいと仲良しの小学五年生のツグやちょいウザイあおいの同級生がナイスな味を出している。
主役はあおいだが、あかねに吉岡里帆、慎之介/しんのに吉沢亮。
とりわけ吉沢が意外に巧くてびっくり! 慎之介としんので声色も変え、こりゃ思わぬ才能発揮!
難点も。歌がもっと重要要素になるのかと思いきや、あまりそれほどでもなく、キャラたちによるエモーショナルな歌唱シーンも印象ナシ。
それから、如何にも“マツケンサンバ”を踊り出しそうな大物演歌歌手が単なるお騒がせKYさん…。
いつしかあおいは、しんのに惹かれている自分に気付く。
だけどその時点で、この想いが成就されない事は分かってしまう。
しんのは別の世界(過去)から来た人。この世界(未来)に突然来たのには、何かしら理由があって。それが解決すれば、当然…。
しんのが時を超えて来た事には、自分自身や周りの人たちにとっても意味が。
あおいの成長。そして、
しんのは遂にある人物と顔を合わせるも、幻滅する。
果てしない将来と夢に希望を持つ少年と、人生や現実にぶち当たり燻る大人。
それぞれに言い分がある。が、
若者の真っ直ぐな言葉は大人の今を動かす。
お堂から出る事の出来ないしんの。しかし終盤、ある思わぬ事件を受け、必死にここを出ようとする。
じっとしていられない。オレが行かねば!
遂にお堂を飛び出し、あおいと共に、文字通り空を駆ける。この青い空を!
それは同時に、慎之介の再起、
かつてあかねと別れ、一人で上京したものの未練と心残りのしんのの解放。
あいみょんの楽曲がマッチ。
未熟な自分、変わらない自分、ダメな自分、無鉄砲だけど何かを変える自分…。
切ない想い、新たな想い…過去と現在を繋ぐ。
井の中の蛙大海を知らず されど空の青さを知る
(↑やはりレビュータイトルはこれに尽きる!)
レモンブルーさん
つい先日、レンタルで再見したばかりです。
昨年公開のアニメ映画では『天気の子』の一人勝ち状態でしたが、自分はこちら派です♪(^^)
それから、自分も『ムーラン』楽しみです。
コロナで2度の延期は残念です…(>_<)
映画館を出た時、鼓動を感じるくらい感動していました!私は あおいの恋心の切なさと彼女の成長が一番刺さりました。それと「井の中の蛙〜青さを知る」の意味の深さですね。吉沢亮さんの新たな可能性を見つけられたことも(笑)