「楽器が語る真意」空の青さを知る人よ ヤスリンさんの映画レビュー(感想・評価)
楽器が語る真意
あの花スタッフが贈る、秩父青春ストーリー第3弾!幼くして両親を失った姉妹と、それを取り巻く幼なじみの男達との恋模様を描いた物語。互いに互いを思いながらその思いがすれ違う、不器用な優しさが観る人の胸をキュンとさせます。
冒頭からバンドのシーンがあり、物語の核が楽器にあることが暗示されます。姉のあかねの恋人しんの(慎之介)が弾くのはGibsonFireBird。ギブソンと言えばレスポールかSGを連想するのですが、ここでマイナーなファイアーバードを選んだ長井監督に拘りを感じます。
そしてそんなしんのに憧れてベースを始めたあおいが、高校生になって弾いているのがEpiphoneThunderBird。サンダーバードはファイアーバードのベース版で、このことからもあおいのしんのに対する気持ちが感じられるのですが、ギブソンじゃなくエピフォンにしているのがGOOD!本家ギブソンは値段が高くて高校生では手が出ません。でも子会社のエピフォンの廉価版なら何とかギリギリお小遣いを貯めれば買える値段(6~7万円程度)。両親の死で進学を諦め、高校を卒業して直ぐに就職した姉のあかねに遠慮して、それでも精一杯背伸びして買った事が想像されるのです。他のアニメでは高校生にいきなりGibsonレスポールやESPクライングスターとか30万円近い楽器を持たせますが、それと比べてなんとリアリティのあることか!
しかし、13年ぶりに演歌歌手のバックバンドメンバーとして帰ってきた慎之介が持ってきたのは同じGibsonのES-335。セミ・アコースティック構造のためロックのような激しい演奏に向かず、ジャズやフージョン、歌謡曲の伴奏向けのギターで、現在は演歌の伴奏をしている慎之介を象徴しているのです。
しかし、そのES-335にもちゃんと意味がありました。公民館の裏であかねに弾き語りを見せるシーン、あれはファイアーバードのようなソリッドギターには出来ません。セミアコだからアンプ無しで生音が出るのです。ES-335の優しい音色に心を癒やされるあかね。ここまで計算している長井監督は凄い!
そして、13年前の姿で練習場に現れたしんの。彼を象徴しているのが密閉されていたファイアーバード。生き霊だの過去から未来に飛んできただの言っていますが、その正体はあかねに振られてそれでも東京に出て行ったしんのが、そのギターに残した未練・あかねに対する想いだったんじゃないかと。だから、あかねの危機にその封印が解かれて外に出ることが出来たのだと思います。
この映画、本当に感動し満足しましたが、一つだけ不満だったのが、最後までしんのとあおいがセッション出来なかったことです。あおいはしんのの「お前は未来のうちのベーシストだ」の言葉を胸に、ベースを弾いてきたのだから、しんのが消える前に一度くらい一緒に演奏させてやりたかった。例えば演歌の先生が他のメンバーと一緒に鹿肉にあたって、急遽しんのとあおい、ミチンコでステージに立つみたいな演出があっても良かったのでは?と思いました。そんな不満の分だけ-0.5とします。
でも、今年観た映画の中では出色の逸品です。まだ観ていない人は是非お勧めします。その際、ギターの事を気に掛けて観ると、新たな感動が生まれますよ!
追記:当初、クライマックスでしんのとあおいが空を飛ぶシーンを、「この作品でも空飛ぶのかよ!」と、食傷気味に捉えていたのですが、ふと思い返すとしんののギターはファイアーバードと言うことを思い出しました。それって火の鳥やん!そりゃ復活したら空飛びますわな!あ~、これで全部繋がった!!ここまで計算していたなら長井監督は天才だ!(*^-^*)
ギターはもちろん、音楽に関し無知な私ですので勉強になります。
冒頭のあおいの音楽の演奏シーンカッコイイですよね!
今からレイトショーで2度目観てきます!(`_´)ゞ