「絡み合わない3つの視点」エンテベ空港の7日間 つとみさんの映画レビュー(感想・評価)
絡み合わない3つの視点
本作のハイジャック犯のような確信犯の多くは、同じ方向を見ていたとしても個人の理想や熱量に違いが生じるものだ。行動が行き過ぎれば言い過ぎるほど個人の間のわずかだった差は広がり始める。
つまり、同じ出来事に遭遇しても考えていることが同じにはならないということだ。
そして本作は、同じことを考えないということを広げ、ハイジャック犯、イスラエル政府、現地に赴く兵士、の三つの視点で描いた。
同じ「ハイジャック事件」に関わった人々であるが、見ているところは全く違うのだ。
ハイジャック犯は、自分たちの思想、理想、そればかり考えて、自分を含めた目の前の人間を見ていなかった。
イスラエル政府は、国際政治的なイスラエルの立場しか考えていない。その政府の中にあっても個人の政治闘争に利用することしか考えていない。彼らも結局、人間は見ていないのだ。
最後に作戦に参加する兵士は、自分と恋人のことだけだ。彼はある意味で単なる仕事であるともいえるわけで、恋人のことしか考えないことは普通といえば普通だ。しかし、彼は本当に彼女のことを見ていたのだろうか。
多くの登場人物たちが自分の都合しか考えていない中で、舞台に上がる兵士の恋人に観客全てが注目するエンディングは印象的だ。
彼女が最も見てほしいと思っている兵士はその場にいない。
実在の事件を元にしたこの物語で、本当に見なければいけなかったところはどこなのだろうか。しっかり見定めないといけない。
これは、どんな事柄についても同じだろう。本質を冷静に見つけ出すことが大事なんだ。
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