「人生に間違いなどない」幸福路のチー しろくまさんの映画レビュー(感想・評価)
人生に間違いなどない
台湾の「幸福路」という小さな街で育ったチーは、いまはアメリカで結婚して暮らしている。
そのチーに台湾から祖母の訃報が届く。
祖母のお葬式に参列するために故郷の街に帰った彼女は、家族や懐かしい友人に再会しながら、これまでの人生を振り返っていく。
なんだか「おもひでぽろぽろ」を思い起こさせるが、ここに戒厳令からの解放、激しい市民運動などがあった戦後の台湾史が重なる。
チーは夫との第一子を妊娠しているが、実は離婚を考えていた。
ところが、彼女は離婚のことも妊娠のことも両親に話せずにいる。
思い悩むチーに関わる家族や友人たちは、ときにはチーを苛立たせたり迷惑をかけたりする。
でも、それらすべては彼女への優しさからきている。
もちろん、だからこそ、ややこしさもあるのだけれど。
登場人物たちの優しさに触れ、観ているこっちも途中から泣きっぱなしになる。
チーは「私の人生は、どこで間違ったんだろう」と呟く。
子どもを作ったほうがいい。
女性でも仕事で活躍したほうがいい。
離婚はよくない。子どもがいれば危機を乗り越えられる。
夢を追ってチャレンジすべき。
現実を見ろ、お金がなければ生活は苦しい。
これ、全部、正しいし、間違っている。
そう、人生に正解も間違いもないのだ。
少なくとも生きているうちは。
何度も差し挟まれる過去の回想シーンがあるが、いくら過去をたどったところで、過ちなど見つかるわけはない。
こうして本作はチーの人生を肯定していく。たが、本作のメッセージは強い。ゆえに普遍性を持つ。だから観る者は、チーを応援しながらも、観る者自身の人生が肯定されていくのを感じるのだ。
本作は全編が絵本のような優しいタッチの絵柄なのが特徴的。
本作はチーの過去の回想や想像世界を行ったり来たりするのだが、この絵柄は、こうした要素を相対化させ、うまい具合に混ぜ合わせるのに効果的だと思う。
傑作。
特に大人の方にオススメです。