「アニメ映画化としては最高峰の出来」劇場版 Fate/stay night [Heaven's Feel] III. spring song tosiさんの映画レビュー(感想・評価)
アニメ映画化としては最高峰の出来
映像・演出に関してはアニメ史上最高峰と言わざるを得ないほど素晴らしい出来で、須藤監督をはじめスタッフの方々の努力の結晶だと思います。
本当にお疲れさまでした。
ただ、気になるのは脚本で…これは原作の段階でシナリオが破綻しているため仕方がないのですが、原作の悪い部分を今回の映画も引きずってしまったように感じました。
原作のシナリオは、主人公士郎とヒロイン桜のストーリーに言峰・イリヤ・凜などの他のキャラクターのエピソードを大量に混ぜてしまったため、根幹となるストーリーやキャラクターがブレて滅茶苦茶になってしまい最終的に何がテーマなのか・何を伝えたいのかがイマイチ分からずに終わってしまいます。
例としては「全てを捨てて桜一人を守ると決意した士郎が、なぜか途中からイリヤの事にやたらと執着し始めイリヤを必死で守ろうとする」などが分かりやすいです。
これは没になったイリヤのストーリーを桜のストーリーにそのまま混ぜてしまったことが原因なのですが、これのせいで士郎がまるで二重人格の様にブレまくります。
命のリスクがあるアーチャーの腕を桜ではなくイリヤのために初めて使おうと決意したり、映画内でもありましたが、最終決戦前に自分にとって桜が本当に大切な存在なんだと自覚した直後にイリヤに同居を持ち掛けるシーンなどはギャグにしか見えませんでした。
今までのルートで目指してきた全てを助ける正義の味方を捨てて、たった一人を助ける覚悟を決めるという事が作品の重要なテーマであるはずなのに、そこにイリヤというキャラクターを入れてしまったため、士郎の言葉・覚悟が全てにおいて薄っぺらくなってしまい何もかもが台無しになっていました。
恐らく須藤監督も原作の欠点を理解されていて、第一章・第二章は他のキャラクターのエピソードを全て排除し士郎と桜の二人にフォーカスした内容になっており、主人公とヒロインのストーリーとしてよくまとまっていました。
しかし第三章はさすがに原作の内容を全て変えることが出来ず、原作の駄目な部分をカバーしきれなかったように思いました。
原作が発売されたのが15年以上も前なので原作ファンの事は気にせず、イリヤと言峰のシーンは全てカットして士郎と桜のオリジナル展開でも良かったのではと思います。
第一章・第二章で士郎と桜の関係性に感動していた知り合いが、第三章の士郎と桜なんてどうでもいいよと言いたげな内容に困惑していたのが印象に残っています。