「超過激な続編を期待していたら全然マジメな戦争映画でビックリしました」キングスマン ファースト・エージェント よねさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0超過激な続編を期待していたら全然マジメな戦争映画でビックリしました

2021年12月25日
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鑑賞方法:映画館

1902年の南アフリカ、赤十字社の代表としてボーア戦争に従軍中の友人キッチナー将軍を妻エミリーと息子コンラッドを伴って訪れたオックスフォード公はボーア軍による奇襲に遭遇、エミリーを失ってしまう。1914年、キッチナー将軍の依頼でオーストリアを訪れたオックスフォード公とコンラッドはフェルディナンド大公に同行しているところを謎の組織が放った暗殺者の襲撃を受けるが・・・。

という高校時代に世界史を頑張った人達がビックリするレベルでリアルな戦史ドラマで幕を開ける本作。先の2作が社会風刺をコッテリ塗りつけたかなり悪趣味かつグロテスクな作風でしたが、本作はそれとはほぼ別物。冒頭から英国史の恥部をシレッと晒す硬派な出だし。もちろん、怪僧ラスプーチンがチャイコフスキーの『1812年』をBGMに暴れまくったり、オックスフォード公相手に延々セクハラするといったシャレもあるにはありますが添え物程度、とにかく歴史上の実在人物と実際に起こった事件を巧みにドラマに取り込み、英国映画には頻繁に引用されるアーサー王の物語で串刺しにした重厚な物語になっています。特に第一次大戦における英国軍対ドイツ軍の塹壕戦の描写は『1917 命をかけた伝令』と肩を並べるくらいの凄惨さを纏っていて、ここだけ切り取っても戦争映画として成立するくらい十分な風格を持っています。20世紀初頭のキングスマン誕生譚の体で世界史をなぞりながら強烈な現代社会風刺と反戦を高らかと歌い上げるかのような分厚いドラマに盛大に泣かされました。しかしもちろんアクション映画としても余りにもちゃんとしていて、複葉機からのパラシュートダイブ、ナイフでの格闘、ライフル狙撃、至近距離での銃撃戦と手榴弾炸裂と全部盛りのクライマックスに素っ頓狂なオフビートギャグをまぶす凶悪さにマシュー・ヴォーンの悪趣味が炸裂していて凄惨な殺戮シーンなのに顔面が綻びっぱなしになりました。

レイフ・ファインズが実に重厚な演技を披露している点で、完全に『007 ノー・タイム・トゥ・ダイ』を凌駕していますが、個人的に気に入っているのはジェマ・アーターソン演じるポリー。オックスフォード家のメイドとして甲斐甲斐しく仕えながら盛大な母性でオックスフォード公とコンラッドを支え、裏では世界規模の情報ネットワークを構築してキングスマンの基盤を作理、スナイパーとしての腕前も超一流とほとんど主役。とにかく最高に面白くて泣けるマシュー・ヴォーンの最高傑作だと思います。ちなみに『ダーク・ウォーターズ 巨大企業が恐れた男』を先に観ていると他の人より1回余計に笑えるのでおススメです。

よね